「花の家」からの帰り道で(2016晩秋のバルカン 其ノ三)


「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」。
多民族、多言語、多宗教のモザイク国家の旧ユーゴスラビアを示す言葉である。
スロベニアセルビアモンテネグロマケドニアクロアチアボスニア・ヘルツェゴビナコソボ自治州、ヴォイヴォディナ自治州を「一つの国家」としていたのはチトー大統領のカリスマ性と「兄弟愛と統一」をスローガンとする国内融和政策だった。一九八0年にチトーが歿してのちも八四年にはサラエボ冬季オリンピックが開催され、多民族国家の結束を示していた。
ところが九0年代を通して地域紛争が多発し、ユーゴスラビアは完全に解体した。その過程は複雑で、さらに一歩踏み込んで民族と宗教対立の深層を理解するには困難を極めそうである。「花の家」からの帰り道で日本人にとってこの地域はいちばん分かりづらいところなのかもしれないと思った。