「白い都」(2016晩秋のバルカン 其ノ八)


少女ヤスミンカはベオグラードの紹介を続けた。
「温暖な気候と肥沃な大地をめぐって、ここは古くからいくつもの民族が果てしない抗争、破壊、略奪を繰り返す舞台となりました。ケルト人、ローマ人に続き中世以降、舞台の主役となるのは、スラブ人、マジャール人、それにトルコ人、近代に入ってからは、オーストリア人も加わります。
ところで、この都市の現在の名称『ベオグラード』は、スラブ民族の一派であるセルボ・クロアート人の言葉で『白い都』という意味になります」。
このあとヤスミンカは、ベオグラードと名付けたのはトルコ人で、かれらの眼にこの都市は乳白色に包まれた街と映っており、秋の半ば、空が白み、河面から乳白色の靄が立ち上がり、その靄に包まれた街は、折から差し込んできた陽の光を受けてキラキラと輝いていましたと語る。