「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブアメリカのギタリスト、ライ・クーダーキューバの、国外ではほとんど知られることのなかったベテラン・ミュージシャンとセッションしたのを機に結成されたビッグバンドだ。
これが一九九六年、翌年リリースされたアルバムは九百万枚の売り上げを記録する大ヒットとなり、ツアーは世界中で大ブームを巻き起こした。
それらをわたしが知ったのは一九九九年に製作されたヴィム・ヴェンダース監督のドキュメンタリー映画ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」で、スクリーンにあるのはまさしく一九三0年代から五0年代にかけて世界で大流行し、アメリカのポピュラーミュージックにも大きな影響をもたらしたキューバ音楽の「ルネサンス」だった。ミケランジェロダ・ヴィンチを生んだルネサンスの精神を体感したければこの映画を観るにかぎる。
あれから十八年、いま活動するメンバーはグループに終止符を打つと決め、「アディオス(さよなら)世界ツアー」に旅立った。

このツアーを追うとともに、現メンバーの生い立ちや音楽活動、そして逝ったミュージシャンたちの人生と最期の様子を描いたのが「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」だ。
一九五九年にキューバ革命が起きるとアメリカとキューバの国交は断絶し、音楽を通じての交流も絶たれた。革命後のキューバでミュージシャンたちの生活は苦しく、転職を余儀なくされた人も多かった。後ろ盾だったソ連の崩壊はキューバの危機の度合を増幅させた。そうしたなかでキューバ音楽の苦境を救うきっかけとなったのがブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブだった。やがてその活動はキューバとの国交回復をめざすオバマ大統領の知るところとなり、ホワイトハウスでもコンサートが行われた。
こうしてメンバーたちの人生はキューバの現代史と重なる。
いま、一九四七年生まれのライ・クーダーは七十歳を超え、キューバの老ミュージシャンたちは「アディオス世界ツアー」を催した。その映像記録にはキューバ音楽の魅力がたっぷりと詰まり、あの頃、そう、二十世紀の三十年台から五十年代へのノスタルジーと、歳月とともに深みを増した人生の哀歓が漂う。
なお本作ではヴィム・ヴェンダースは製作総指揮に回り、『ヴィック・ムニーズ/ごみアートの奇跡』のルーシー・ウォーカーが監督を務めた。
(七月二十四日TOHOシネマズシャンテ)