2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「小さいおうち」

郊外の丘の上に建つ赤い三角屋根の家。昭和戦前のモダニズムを偲ばせるこの瀟洒な家には玩具会社の重役平井雅樹(片岡孝太郎)、夫人の時子(松たか子)、一人息子で小学生の恭一という核家族が住んでいて、女中の布宮たき(黒木華)が住み込みではたらいて…

『即興詩人』のコロッセオ(伊太利亜旅行 其ノ二十七)

ゲーテは『イタリア紀行』で月の光を浴びた夜のコロッセオを讃えた。 『即興詩人』で、母親を亡くしたアントニオはおじのペッポに引き取られる。「スペイン階段の王」というあだ名をもつ乞食者の元締ペッポのねらいはアントニオへの弔慰金だった。その手を逃…

コロッセオ(伊太利亜旅行 其ノ二十六)

ゲーテがワイマールでの煩瑣な生活を逃れてイタリア旅行に発ったのは一七八六年九月三日だった。ローマへ入ったのは十一月一日。 「宮殿と廃墟、庭園と荒野、遠望と小景、家、厩、凱旋門、円柱。(中略)実に鑑賞と驚嘆の連続で、夜になるとわれわれはすっか…

「さよなら、アドルフ」

「食糧を分けてもらいたいんです。お礼の品は持ってきていますから」 農家の入口で懇願する十四歳の少女ローレに主婦が「お母さんはいるの」と訊ねる。「もちろんです」と答えると相手は怪訝な目つきで「刑務所にいると思ってたわ」と口にする。 それでもこ…

「永遠の都」(伊太利亜旅行 其ノ二十五)

一昨年につづいてサンピエトロ寺院を訪れた。ただし今回は外観のみ。 ローマは「永遠の都」と呼ばれる。イギリスの詩人バイロンはコロセウムに永遠を感じた。そのときの詩が『即興詩人』に引用されている。 「このコロセウムのある限り/ローマは永遠であろ…

ローマへ(伊太利亜旅行 其ノ二十四)

フィレンツェ観光のあとは近郊のポンタシエーベに宿泊し、翌朝ローマに向かった。バスではiPhoneを取り出してクリフォード・ブラウン、マックス・ローチの双頭クインテットのジャズに耳を傾けた。突飛な話になるけれど、ローマの街の雑踏や古代の遺跡がもた…

小津安二郎生誕110年没後50年

田中眞澄『小津ありき』に筈見恒夫のエルンスト・ルビッチ評が引用されていた。 「維納流ソフィスティケートとエロティシズムの大胆なる映画移入」「洒落と冗談の仮面を冠った近代人の憂鬱」「スマートな逆説による頽廃の感情」云々。これらの評言はルビッチ…

『即興詩人』(伊太利亜旅行 其ノ二十三)

須賀敦子の父親は森鴎外を尊敬していた。父にとって鴎外は国語であり、ときに人生観そのものでもあった。娘は父から何度も『即興詩人』を読めといわれている。娘がローマに留学したとき、はじめて父から届いた小包は岩波文庫の『即興詩人』で「この中に出て…

『幾夜寝覚』(伊太利亜旅行 其ノ二十二)

旅から帰り、何冊か読んだイタリア旅行記の一冊に井上究一郎『幾夜寝覚』がある。1909年生まれの著者が1989年にイタリアを旅したときの紀行文で、このときは『プルースト全集』に収める『失われた時を求めて』の最終巻『逃げ去る女』の訳稿決定を前にしての…

「ドラッグ・ウォー 毒戦」

ことしになってはじめて観た新作映画は「ドラッグ・ウォー 毒戦」。「ゲイジュツ、関係おまへん」の麻薬捜査大活劇だ。 香港ノワールの巨匠ジョニー・トー監督が五十作目にしてはじめて大陸を舞台とする映画を撮った。津海の港から五星紅旗を掲げた何十艘も…

ブックカヴァー(伊太利亜旅行 其ノ二十一)

フィレンツェは皮革製品が名産だからブックカヴァーを狙っていた。うまい具合に旅行社が提携している皮革用品専門の土産物店が大聖堂のすぐ近くにあり立ち寄った。期待通りでお土産を兼ねて数枚購入した。イタリアに文庫本サイズの本はないだろうから日本向…

眺めのいい部屋(伊太利亜旅行 其ノ二十)

映画の好きな人がローマを旅すれば「ローマの休日」に触れずにはいられないだろう。だったらフィレンツェはどうか。わたしのばあいはジェイムズ・アイヴォリー監督『眺めのいい部屋』ですね。 1907年、イギリスの良家の令嬢ルーシー・ハニーチャーチが年配の…

「ファイアbyルブタン」

二0一二年パリのナイトスポットの殿堂クレイジーホースがゲストアーティストとしてクリスチャン・ルブタンを招き、彼の希望で音楽をデイヴィッド・リンチが手がけた。そのショーは〈FIRE〉。八十日の期間限定で公開され、パリのショービズ界の絶賛を博した…

フィレンツェ眺望(伊太利亜旅行 其ノ十九)

ミケランジェロ広場はフィレンツェの街並みを一望できる小高い丘の上にある。歴史の街をこんなふうに眺められるのはフィレンツェ観光の醍醐味といってよいだろう。 サマセット・モームの歴史小説『昔も今も』で、イタリア統一をめざす法王軍総司令官チェザー…

ミケランジェロ広場で(伊太利亜旅行 其ノ十八)

フィレンツェの展望台として有名なミケランジェロ広場の中心にはミケランジェロの記念碑とともにダヴィデ像のレプリカが置かれている。 高校生のとき選択していた世界史の参考書目として羽仁五郎『ミケランジェロ』を読んだ。「ミケランジェロは生きている、…

ネルソン・マンデラ氏が亡くなって・・・

日本橋三越本店で写真展「昭和」を見た。昭和初期の震災復興から昭和四十年代東大安田講堂に火炎瓶が飛び交うあたりにかけての写真が多数展示されていた。モダン東京から戦中期へ、ここからは地方で撮った作品も紹介され、作品鑑賞とともに昭和史の勉強にな…

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(伊太利亜旅行 其ノ十七)

フィレンツェのシンボルであるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂。1296年から百四十年以上をかけて建設された。巨大なドームが特徴の大聖堂は、イタリアにおける晩期ゴシックおよび初期ルネサンスを代表する建築物だ。いずれも教科書や事典にある基礎…

お年賀

あけましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。 昨年八月にアメリカ(シカゴ、ニューヨーク)、十月にイタリア(ミラノ、フィレンツェ、ポンタシエーベ、ローマ、シエナ、ピサ、ヴェネツィア、ヴェローナ)を旅しました。アメリカと…