『即興詩人』のコロッセオ(伊太利亜旅行 其ノ二十七)


ゲーテは『イタリア紀行』で月の光を浴びた夜のコロッセオを讃えた。
『即興詩人』で、母親を亡くしたアントニオはおじのペッポに引き取られる。「スペイン階段の王」というあだ名をもつ乞食者の元締ペッポのねらいはアントニオへの弔慰金だった。その手を逃れてアントニオが逃げ込んだのがコロッセオで、このときも『イタリア紀行』とおなじ月の夜だった。ここのところでアンデルセンコロッセオについて詳述する。
〈そもそもこの「コリゼエオ」は楕圓なる四層のたてものにして、「トラヱルチイノ」石もてこれを造る。層ごとに組かたを殊にす。「ドロス」、「イオン」、「コリントス」の柱の式皆備はりたり。基督生れてより七十餘年の後、ヱスパジアヌス帝の時、この工事を起しつ。これに役せられたる猶太教徒の數一萬二千人とぞ聞えし。〉(森鴎外訳)
『即興詩人』には歴史や芸術がちりばめられている。