コロッセオ(伊太利亜旅行 其ノ二十六)

ゲーテがワイマールでの煩瑣な生活を逃れてイタリア旅行に発ったのは一七八六年九月三日だった。ローマへ入ったのは十一月一日。
「宮殿と廃墟、庭園と荒野、遠望と小景、家、厩、凱旋門、円柱。(中略)実に鑑賞と驚嘆の連続で、夜になるとわれわれはすっかり疲れ切ってしまう」。文豪のローマ讃歌だ。しかし疲れ切った夜もなかなかじっとしてはいられない。「満月の光を浴びてローマを彷徨う美しさは、見ないで想像のつくものではない」のだから。(『イタリア紀行』相良守峯訳)
満月の光云々は一七八七年二月二日のものだが、三日このかた美しく晴れわたった夜を心ゆくまで味わったとあるから寒さは気にならなかったらしい。光と闇に呑みつくされた空間にパンテオンやサンピエトロ寺院の前庭、その他、大通りや広場が月の光を受けて浮かび上がる。なかでもコロッセオの眺めをゲーテは特筆している。