フィレンツェ眺望(伊太利亜旅行 其ノ十九)

ミケランジェロ広場はフィレンツェの街並みを一望できる小高い丘の上にある。歴史の街をこんなふうに眺められるのはフィレンツェ観光の醍醐味といってよいだろう。
サマセット・モーム歴史小説『昔も今も』で、イタリア統一をめざす法王軍総司令官チェザーレ・ボルジアのもとへフィレンツェ共和国防衛のため外交官として派遣されたニッコロ・マキアヴェリが、とりあえずの役目を終えて帰国する場面を作者はこんなふうに描いている。
マキアヴェリは前方に眼をやった。夕陽が沈みゆく青白い冬空の彼方に、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の赤い瓦の丸屋根が、誇り高くそびえている。(中略)あれだよ、おれが自分の魂よりも愛している都だよ。(中略)ああ、わが故郷よ、フィレンツェよ、花の都よ。マキアヴェリの心に熱い思いがこみ上げてきた。」(天野隆司訳)