「ドラッグ・ウォー 毒戦」

ことしになってはじめて観た新作映画は「ドラッグ・ウォー 毒戦」。「ゲイジュツ、関係おまへん」の麻薬捜査大活劇だ。
香港ノワールの巨匠ジョニー・トー監督が五十作目にしてはじめて大陸を舞台とする映画を撮った。津海の港から五星紅旗を掲げた何十艘もの漁船が出港するシーンが印象的だ。もっともアクション映画としてのノリはこれまでの香港作品となんら変わったことはなく、いやいや、ノーガードの撃ち合いの炸裂はこれまでよりも激しさを増している感があった。

中国、津海にある麻薬製造工場で爆発が起こり、現場から逃走した車が衝突事故を起こす。車を運転していた香港出身のテンミン(ルイス・クー)という男が病院に担ぎ込まれる。麻薬捜査官のジャン警部(スン・ホンレイ)はテンミンが麻薬組織に大きなかかわりを持っていることを突きとめる。
「五十グラム以上のヤクを所持するばあい、わが中国の刑法は即時の死刑を定めている。おまえの工場はトン単位で密造しているだろうが!」
テンミンは減刑と引き換えに東アジアを勢力とする麻薬シンジケートへの捜査協力を申し出て、この情報をもとに潜入捜査がはじまる。
ジャン警部とベイ刑事(クリスタル・ホアン、黙々と捜査に従事するこの気鋭の女性刑事がとても素敵だ)は津海のボスで大物ブローカーの夫婦を装いテンミンとともに組織に接触するが、テンミンの証言に全幅の信頼は置けないし、その振る舞いにもシンジケートになんらかのサインを送っている可能性がある。思い通りにことが運ばなければそれだけ心理戦の軋轢は増す。こうして捜査の進展と裏切り裏切られの行方が絡まりドラマは進行する。
密造場の腐乱死体や貧民たちが麻薬を入れたカプセルを飲み込んで排便時に回収するなどバッチい場面が現代中国の薬物事情のリアル感を増しているが、真偽のほどは知りません。
(一月十三日新宿シネマカリテ)