なめろう(春の銚子で 其ノ十二)


徒然草』第五十二段に石清水八幡宮にお参りに行き、とちゅうあちらこちらとお参りをしたのはよかったが「神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」と肝心の山上には登らずに帰って来た仁和寺の法師の話がある。漁業と醤油の町の銚子で魚料理を食べずに帰ったとあっては仁和寺の法師と言われてもしかたがない。
というわけで新鮮な魚料理の銚子でも有名な御食事処大忠家さんで昼食をとった。吉田健一が「昔並にうまいものを安くたべさせてくれる飲み屋風の、あるいはせいぜい小料理屋の店」が東京には少なくなったと嘆いていたが、ここはそうしたうれしいたたずまいのお店だ。
金目の煮つけや天麩羅などとともにお目当てのなめろうが出た。もとは房総の漁師が漁船でつくって食べていた料理だという。あじ、さんま、いわしなどの青魚をまな板の上で粘り気が出るまで細かく叩き、出来上がったものをすぐに食べる。生ビールになめろう、そして数種の魚料理に舌鼓を打ったひとときだった。