君ケ浜(春の銚子で 其ノ十一)


犬吠埼に隣接するおよそ一キロの海岸線が君ケ浜だ。太平洋の波が寄せる美しい浜辺で、浜沿いはしおさい公園として整備され憩いの場となっている。数組の小さい子供を連れた親子が暖かな午後のひとときを過ごしていた。Iさんもお孫さんが小さい頃にはよくここへ連れて来ていっしょに遊んだとおっしゃっていた。浜に面しては千葉商科大学がある。太平洋が眺望できるキャンパスはめずらしいのではないかな。
この一帯は「日本のドーバー海峡」「東洋のドーバー」と呼ばれ、また海岸の美しさを舞子さんにたとえたのだろう「関東舞子」の愛称もある。浜田義一郎監修『江戸文学地名辞典』の銚子の項に「江戸文学では、なぜか勘当息子は銚子に遣されるのが常になっている」とあった。房総に別邸をもつ江戸の商人は多かったから、勘当息子は別邸で謹慎させられていたのだろう。そして君ケ浜に立って華やかな舞子の姿を思い出して謹慎が明けるのを待っていたような気がする。