2020-01-01から1年間の記事一覧

黒船来航から新型コロナウイルスまで

ペリーの黒船が来航したのは嘉永三年(一八五0年)のことだった。その三年前、米国はオランダに日本との通商について仲介を依頼していて、オランダはこれを断ったうえで徳川幕府に知らせ、その後もアメリカ側から得た情報を伝えていた。 これに先立つ天保十…

マスクへの視線

吉村昭『海の葬礼』の森山栄之助、『黒船』の堀達之助はともに幕府の英語通詞であるとともに英語の先達として英和辞書の作成、編集にたずさわった。現物は未見だけれど、二人の人物像からまじめと愚直がしみわたった辞書だろうと想像している。 一昨年だった…

「グッドライアー 偽りのゲーム」

ともにつれあいを亡くしたという高齢者の男女がインターネットを通じて知り合う。一見すると男は一癖も二癖もありそうな胡散くさい老爺、女は世間知らずで無垢な老女だ。さいしょのイメージどおり男が仲間を率いて詐欺を働いているのは早々にあきらかになる…

武漢の医師の死

中国が新型肺炎を公表するまえからメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」を通じて危険性を訴えていたのに「デマ」として公安当局に処分された武漢市中心医院の眼科医師李文亮さんがみずからも新型コロナウイルスに罹り二月七日未明に亡くなったという…

「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」

ニューヨーク郊外の館でベストセラー作家にして巨大出版社のオーナー、ハーラン・スロンビーの八十五歳の誕生日が祝われ、翌朝、ハーランが書斎で喉を切り裂かれて死んでいるのが見つかった。警察は自殺と考えていたが、そこへ私立探偵のブノワ・ブランが匿…

「マイ・フーリッシュ・ハート」~チェット・ベイカーの最期

「チェット・ベイカー・シングス」、わたしの男性ジャズボーカルのワン・オブ・ザ・ベストのディスクだ。端正で、ちょっと中性的というか妖しい雰囲気を漂わせたジャケットを含めて。 一九五0年代にトランペット奏者、そしてボーカリストとしてジャズシーン…

判断力と品行

「マチネの終わりに」は「愛染かつら」や「君の名は」(菊田一夫の原作ですよ、念のため)といったすれ違いメロドラマの一大変奏曲だった。 パリでの公演を終えた世界的なクラシックギタリストの蒔野聡史(福山雅治)と、パリの通信社に勤務するジャーナリス…

カルロス・ゴーンの逃亡

年始のNHKラジオのニュースで、カルロス・ゴーンのレバノンへの入国について、同国の著名なジャーナリストが、カネと力とコネをもつ特別な人に政府が特別な措置を与えているのは政治への信頼を揺るがせ、人心にも悪影響をもたらす、と訴えていると報じていた…

「パラサイト 半地下の家族」

評判に違わない無類のおもしろ映画に目を凝らした百三十分でした。 キム一家は両親と、大学進学が叶わない息子と娘の四人全員が失業中で、アルバイトや内職でその日暮らしの生活を送っている。そんなある日、息子ギウが友人の紹介で富裕層のパク家の娘の家庭…

お正月明け走り込み!

先週の土曜日はことしの初レース(10キロ)を走り、昨日は「2020.01.18 (Sat) STEP UPレッスン ランニングアドバイザーsaho~☆お正月明け走り込み!20km距離走☆ 」に参加しました。 sahoさんは現役時代、中距離で活躍した女性ランナー。 雨に雪が混じるなか、…

熱情のゆくえ

人の熱情がどんなふうに推移するかについて、はじめは足元、つぎに身体の中ほどへ行き、そしてのど元へとたどり着いて、ここを最後の休憩場所とするという説がある。 二本足ですっくと立ち、身体の中ほどを核とする精力は快楽を求め続け、やがて精力減退の時…

役者を見抜く力と表現力~芝山幹郎『スターは楽し 映画で会いたい80人』  

「繊細よりも精気を誇り、屈託よりも痩せ我慢を選んだゲイブルには、やはりキングの名がふさわしかった」 「クーパーには荒野と摩天楼の両方が似合った」。 芝山幹郎『スターは楽し 映画で会いたい80人』(文春新書)にあるクラーク・ゲイブルとゲーリー・ク…

『深夜の散歩 ミステリの愉しみ』に導かれて

昨二0一九年十月に創元推理文庫から福永武彦、中村真一郎、丸谷才一『深夜の散歩 ミステリの愉しみ』が刊行された。書誌については後回しにして今回の創元推理文庫版は三人の著者のこれまで未収録だったミステリについてのエッセイや丸谷才一さんが収録しな…

お年賀

明けましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。 二0ニ0年一月一日 わたしの六十代の主たる楽しみは、海外に遊び、旅先の地についての本を読んだり、映画を観たりすることでした。定年退職後からのスタートなので手塩にかけて使いこ…