2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

震災の日の本と映画

八月十五日。恒例により閣僚の靖国神社参拝が報道されていた。賛否両論を読んでも年中行事の風景を見ているような気分がする。それらに較べ、きょう読み返した評論家の呉智英氏のコラム「あーあ、保守よ情けない」(『健全なる精神』双葉文庫所収)は小太刀…

パムッカレ(土耳古の旅 其ノ十八)

エフェソスからパムッカレへはバスでおよそ三時間、距離にしておよそ百八十五kmほどある。 ここは「ヒエラポリス-パムッカレ」という複合地域として世界遺産に登録されている。ヒエラポリスは紀元前二世紀後半に古代王国ペルガモンの王エウメネス二世によっ…

下城の太鼓

江戸城本丸と西ノ丸には御太鼓櫓が設けられており、ここで時の太鼓を打っていた。太鼓の直径およそ三尺、打ち棒の長さおよそ二尺、棒先は赤子のあたまほどもあったからずいぶんと大きく重く、これを御太鼓坊主が振り上げて時を告げた。 門は朝六つ(六時)の…

トイレの遺跡(土耳古の旅 其ノ十七)

おなじツアーに参加した若い人から、はじめての海外旅行について問われたので「一九七六年の三月に北京、天津、上海を旅したのが初体験でした」と答えたのはよかったが「その年の一月に周恩来が、九月に毛沢東が亡くなったから、ぼくが行ったときはまだ毛沢…

限りある人生に限りなく好きなことをして果てた二人の名優〜芥川比呂志と中村伸郎

昭和十年度キネマ旬報ベスト・テンの第一位はジュリアン・デュヴィヴィエ監督の若き日の傑作「商船テナシチー」が獲得している。原作のシャルル・ヴィルドラックの同名戯曲は一九二0年にフランスで初演され、のちに近代劇の古典と称されるようになった。 有…

図書館のなかで(土耳古の旅 其ノ十六)

本が好きだから西洋古代の図書館として名高いエフェソスの図書館のなかに立てたのはうれしかった。 『眺めのいい部屋』や『ハワーズエンド』の作家E・M・フォースターに『アレクサンドリア 歴史と案内』(1922年)という著作があり、そこにプトレマイオス朝…

「アメリカン・スウィートハート」

キャサリン・ゼタ=ジョーンズを追っかけてDVDを探しているうちに「アメリカン・スウィートハート」に出会った。彼女のファンからすれば何をいまさらと言われそうだけれど不覚にもこれまで知らなかった。 「マレフィセント」のプロデューサーであるジョー・ロ…

エフェソスの図書館(土耳古の旅 其ノ十五)

エフェソスの遺跡は多く紀元前二世紀以後にローマによって建てられたもので図書館はその代表とされている。建設が始まったのは百十年代で百三十五年に完成した。この地方の総督をつとめたセルシウスの功績を称えてセルシウス図書館の名で呼ばれている。当時…

「イントゥ・ザ・ストーム」

スティーブン・クォーレ監督「イントゥ・ザ・ストーム」。時さえ忘れた八十九分だった。 こういう映画を観ると作品評価の究極は時間を忘れさせる度合にあると実感する。先日ある映画で何度か腕時計を目にしたものだから余計にそう思う。 ついでながら時さえ…

エフェソス(土耳古の旅 其ノ十四)

エフェソスについての系統的な知識はもたないから、とりあえずはこの地についての断片的な知識を寄せ集めてみる。史実かどうかは専門家におまかせするほかない。 まずここはイエスの母マリアが使徒ヨハネとともに余生を送ったと伝えられるところだ。比較的早…

「異端」の言論活動〜末弘厳太郎(関東大震災の文学誌 其ノ十八)

関東大震災をめぐる言論のなかで宮武外骨は在野において異彩を放ったが、その対極にある東京帝国大学法学部という「体制エリートの製造販売所」(高島俊男『寝言も本のはなし』)にも末弘厳太郎という異端の言論人がいた。 末弘の著『嘘の効用』(川島武宜編…