「イントゥ・ザ・ストーム」

ティーブン・クォーレ監督「イントゥ・ザ・ストーム」。時さえ忘れた八十九分だった。
こういう映画を観ると作品評価の究極は時間を忘れさせる度合にあると実感する。先日ある映画で何度か腕時計を目にしたものだから余計にそう思う。
ついでながら時さえ忘れる興奮と夢中は仕事や勉強で使いすぎた脳を休ませ疲れをとってくれる。興奮と夢中には脳の別の部分が対応するから、疲れた箇所は休息し、そのかんに他の部分が活性化して結果として治療的効果がもたらされ脳全体が生き生きとする。そこまで行かなくてもささやかながらブログの記事を書いてみようという気になる。

対竜巻仕様の装甲車「タイタス」で巨大竜巻を追いかけるドキュメンタリー映画製作のチームがいる。向かうのはアメリカ中西部、コロラド州シルバートン。チームの気象学者はここで大竜巻が起こる可能性が大きいと言う。
自分たちが撮った超リアル竜巻映像を投稿すればたちまちYouTubeの大スターになれると「タイタス」について行く二人のおバカ男もいる。
彼らにとって竜巻発生は望むところだが、住民たちにはたまったものではない。けれど気象学者の予知どおり巨大竜巻は発生する。
あとはまさしく一瀉千里。直径3200メートル、秒速135メートルの竜巻が人々を襲う。家屋、車、大型トレーラーそして航空機までもが破壊され宙に舞う。炎を巻き込んだ竜巻。別個に起こった竜巻の合体。逃げまどう人。避難に知恵をしぼる人。家族の救出に向かう人。ドキュメンタリー映画を撮影するチームの高揚と不安。情感に流れる要素をできるだけそぎ落とした人間模様の描写もよい。
席捲する竜巻のCGと登場人物のもつデジカメやスマホで撮ったPOV(主観)ショットが組み合わされたスクリーンは現代の映像環境を象徴している。
現実の竜巻を思うと、驚くべき想像力によるパニック映画と言えないところが難儀である。
(八月二十八日丸の内ピカデリー