中欧の旅で映画とミステリを思う(其ノ三)

早朝にウィーンを出てハルシュタットへ、バスでおよそ四時間、二百九十キロの行程だった。
ここは世界一美しい湖岸の村といわれユネスコ世界遺産の地ともなっている。ほんとうっとりする景色だ。
  
ダッハシュタイン山塊山麓に位置する小さな町なので、家々は山の傾斜に沿うようにして建てられ、家の軒には花束が吊されていて心洗われる気分にしてくれる。湖岸を行き、路地をさまよい、ショッピングをしたあと通りに出て家々の花々を見てあるく、夢のようなひとときだった。
昼食時にダークビールを注文したところ、出された銘柄はと見れば「エーデルワイス」とあり、いやが上にもオーストリアの旅、「サウンド・オブ・ミュージック」の旅といった気分を高めてくれる。ついでながらこの「エーデルワイス」、これまで味わったことのないほどのどごしさわやかな黒ビールだった。
海外旅行は飛行機で、そして旅行地で昼間からビールやワインが飲めるところがいいなあ。日本でもできるじゃないかと言われそうだが、できる環境にあるのと、じっさいやるのとは異なるわけで、国内だとそこまでの気分にはなれない。

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快晴だったハルシュタットから山越えでザルツブルグへ着いたときは雨で、少し残念の声も聞かれたけれど、わたしは雨にけぶるザルツブルグもこれまた一興と発想するタイプですのでなんということはない。
  
双方の写真に見えている丘の上の教会。わたしたちが訪れたのは週末だったから、聞けばここでコンサートが開かれるとか。もちろん予約が必要なので切歯扼腕するほかなかったが、この雰囲気、この環境でクラシック音楽を聴いてみたいという気分は高まるばかり。次に来るときにはぜひコンサート附きにしておきたいものだ。
    
ベルリンフィルとウイーンフィルのコンサート会場、モーツアルトの生家などとともにヘルベルト・フォン・カラヤンの生家まで観光場所となっていた。
そうしてミラベル庭園。十八世紀に完成したザルツブルグを代表するスポットで、「サウンド・オブ・ミュージック」ではマリアと子供たちがここで「ドレミの歌」を歌っている。
  
七人の子供を持ち妻に先立たれたトラップ大佐の屋敷に家庭教師として修道院からマリアがやって来る。快活な彼女は子供たちに歌を教え、一家によるコーラスはザルツブルグ音楽祭で授賞するほどに。やがて大佐とマリアは結婚にいたるが、ナチスの勢力が強くなり、相容れない一家はアメリカに旅立つ。
というふうにこの映画はオーストリアの人々には苦味のある内容なのだが、そこは政経分離というのか、過去の反省はそれとして「サウンド・オブ・ミュージック」はいまなお大いなる観光資源として活用されている。