「アルゴ」

「アルゴ」おもしろかったなあ。終わるとすぐに拍手したかったんだけどはずかしくて心のなかで拍手喝采していた。
実際にあった出来事だから当事者にとってはおもしろいどころの騒ぎではないが、それにしても現実がこれほどエンターテイメントと一体化してよいのかしらというのが率直な感想だ。さっそく原作も読んでみよう。

悪逆と贅沢でイラン国民の怨嗟のまととなっていたパーレビー王朝が崩壊し、パリに亡命していたホメイニが最高権力者となった。イラン革命が成功し、反米気運が高まるなか、米国は病気治療を名目にパーレビー国王の入国を承認した。そのため過激派はテヘランにあるアメリカ大使館を占拠し、職員五十余名が人質となってしまう。一九七九年十一月四日のことだ。
その渦中で大使館員とその妻たち六人が自力で脱出しカナダ大使の自宅に潜伏する。革命政権の追求は熾烈で、アメリカは救出に困難を極める。こうしたなか、CIAで人質救出を専門とするトニー・メンデス(ベン・アフレック)がある奇策を立案する。「アルゴ」という架空のSF映画を企画し、六人を撮影スタッフに偽装して出国させるというものだ。
映画がフェイクと知られないよう、それらしく製作発表のイベントや記者会見が開かれる。これらを演出し、取り仕切ったのがハリウッドのプロデューサー、レスター・シーゲル(アラン・アーキン)と特殊メイクの第一人者ジョン・チェンバースジョン・グッドマン)の二人だ。
とてつもなく厳しい状況のなか信じがたい作戦を発想する主人公がいささか通常の回線から外れた人間味を発揮すれば、ハリウッドの二人はいかにもカツドウヤらしい手八丁口八丁で煙に巻く胡散臭さを漂わせて絶品。
不気味だったのは、占拠された大使館で何十人もの子供たちを使い、シュレッダーにかけた細片をつないで大使館員の顔写真の復元を急いでいるシーン。そうするうちに六人のうちの一人の顔が明らかになる。旅券と突きあわされると全員の命はない。奇想に驚き、計画遂行の奇談にハラハラドキドキの百二十分。
闘いのあとカツドウヤの二人はこんな会話を交わす。
「歴史は喜劇にはじまり、悲劇に終わるという言葉がある」(カール・マルクス『ルイ・ボナパルトブリュメール十八日』にある「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」をもじったものでしょう)
「今回は反対だったね。ところでそれって誰の言葉」
マルクス
グルーチョか」
製作、監督、主演を兼ねたベン・アフレック(製作はグラント・ヘスロフ、ジョージ・クルーニー三者)だが、役者出身の映画監督としてクリント・イーストウッドの後を継ぐとの評価はいっそう高まるだろう。
(十月三十日、ヒューマントラストシネマ渋谷