2013-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「アルバート氏の人生」

一八六0年にイングランドで起きたロード・ヒル・ハウス事件のケント家には主人のサミュエルと前妻メアリ・アン・ウィンダスとのあいだに生まれた四人の子供がいた。ケイト・サマースケイル『最初の刑事』にはこの四人のうちともに十代の次女と長男に家出経…

浅草本法寺

地下鉄銀座線田原町駅に近い浅草寿町に日蓮宗の寺院、本法寺がある。ご覧のようにここの外塀には噺家、講釈師、色物芸人をはじめ席亭、放送メディア等の寄席関係者多数の名が朱で刻されていて、眺めているだけで昭和三十年代から四十年代を中心に寄席で人気…

『最初の刑事』

ヴィクトリア朝のなかば一八六0年六月イングランド南西部にあるロードという小さな村でサヴィルという三歳の男の子が殺されるという事件が起きた。使用人用の便所に棄てられた三歳児の死体はのどがかき切られて首はほとんど切断状態にあった。 世にロード・…

白山花街跡

十年ほど前、そのころはまだ路地の奥にある三、四の家屋に待合か料亭の軒燈が飾られていて、ここがかつての小石川指ケ谷町、白山花街の跡であろうと眺めたおぼえがある。ほんとうにここだったかと詰められると百パーセントの自信はないけれど拠り所とするの…

『ジャズ・ダンディズム』

野口久光(1909-1994)という名前を知ったのはジャズのレコードにあるライナー・ノーツをつうじてだった。グラフィック・デザイナーとしての業績は知らないまま、のちに戦前戦後にかけて描かれた千枚にも及ぶ映画ポスターのなかからセレクトされた『ヨーロッ…

井上唖唖墓所

昨年末の某日午後、文京区白山にある蓮久寺を訪ね、唖唖井上精一の墓参をしてきた。井上家累代の墓に墓誌が添えられていて、写真では向かって右から二番目に「本信院誠諦日精居士大正十二年七月十一日俗名精一行年四十四歳」と刻されている。 永井荷風と井上…

「サイド・バイ・サイド」

これまでの映画の歴史において唯一の記録フォーマットはフィルムだった。しかしいまデジタルシネマの台頭によりフィルムが消えつつある。映画館で「デジタル上映」という文字を見かけることも多くなった。 「サイド・バイ・サイド」はこの映画の現在と未来を…

駅伝の碑

不忍池のほとりに建つ駅伝の碑。建立は新しく、裏面に平成十四年(二00二年)五月一日とあり、それに係わった日本陸上競技連盟をはじめ全国高等学校駅伝競走大会、東京箱根間往復大学駅伝競走といった多数の競技団体の名が刻まれている。 碑文にあるように…

夢の代の翁たち

柴田宵曲『団扇の画』(岩波文庫)には師友を追悼する幾篇かが収められていて、厚誼と学恩を謝す先人には多く敬称を「翁」としている。 「御無沙汰を続けている間に、林若樹翁の訃が伝えられた」(昭和十三年) 「五月十四日の夕刊は三田村鳶魚翁の長逝を伝…

ザルツブルグのマロニエ

このあいだの旅行でザルツブルグのモーツァルト生家近くにマロニエの樹を見かけた。かつての日本人の西洋趣味の心性がいとおしんだ樹木にマロニエがありリラ(ライラック)があった。 「空はくれて丘の涯に/輝くは星の瞳よ/なつかしのマロニエの木蔭に/風…

『快楽としてのミステリー』

丸谷才一氏の晩年の著作は多く自身の仕事を総括する意図から出たもので、いずれも「丸谷才一自身による丸谷才一」とでもいえる批評的編集の方針に基づいていたと毎日新聞の書評欄に鹿島茂さんが書いていた。 多年にわたるミステリーのエッセイと書評を収めた…

お年賀

あけましておめでとうございます。 年の区切りをつけておこうと、大晦日にようやくレイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』を読み終えました。この本の訳者あとがきで村上春樹氏は、検察官庁の捜査職から私立探偵に転じた主人公フィリップ・マーロウの魅力…