ザルツブルグのマロニエ


このあいだの旅行でザルツブルグモーツァルト生家近くにマロニエの樹を見かけた。かつての日本人の西洋趣味の心性がいとおしんだ樹木にマロニエがありリラ(ライラック)があった。
「空はくれて丘の涯に/輝くは星の瞳よ/なつかしのマロニエの木蔭に/風は想い出の夢をゆすりて/今日も返らぬ歌を歌うよ」。
松島詩子の名唱で知られる「マロニエの木陰」だが、さてこの木陰はいずれの地にあったものか。パリそれともザルツブルグだったか。
戦前の流行歌にあるリラは北海道ではなくておもに上海のものだった。
東海林太郎が「リラの花散るキャバレーで逢うて/今宵別れる街の角」(「上海の街角で」)と歌えばディック・ミネは「涙ぐんでる上海の/夢の四馬路の街の灯/リラの花散る今宵は/君を想い出す」(「上海ブルース)といった具合だ。双方とも山本健吉『基本季語五00選』には入っていない。