2011-01-01から1年間の記事一覧

「踊子」

日本映画専門チャンネルで「踊子」を観た。永井荷風原作の未見の必見映画だったので、まことにうれしい。 舞台は浅草、路地裏にある六畳一間のアパートに山野(船越英二)と妻の花枝(淡島千景)が生活している。山野は小さなレビュー劇場のバイオリン弾き、…

瞬間日記抄(其ノ六)

銀座シネパトスで「女の中にいる他人」と「けものみち」を観る。昨年没した小林桂樹の追悼上映。会場の故人ゆかりの品のなかに昭和十六年に東宝を受けたときの不合格通知があった。東宝の計画部俳優募集係の通知書簡は候文でしたためられている。こうしたも…

『漂砂のうたう』

『茗荷谷の猫』につづく木内昇(きうち・のぼり)さんの新作となるとおのずと手は伸びる。『漂砂のうたう』集英社刊。本作は先日、直木賞を受賞した。 明治初期の根津遊廓を舞台とした歴史小説の一面はあるけれど、いっぽうでたいへんにミステリアスな小説で…

高峰秀子をめぐる二、三の妄想

一九二四年(大正13年)三月二十七日函館の平山錦司、イソ夫婦に長女が誕生する。三人の兄がいて四人目の子供だった。錦司の妹の志げが秀子と名付けた。 志げは十七歳のときに荻野市治という活弁士と駆け落ちし、新潟では高峰秀子の芸名で女活弁士となってい…

瞬間日記抄(其ノ五)

大晦日夜七時のNHKニュースで高峰秀子の訃報を知る。命日は十二月二十八日。八十六歳だった。御冥福をお祈りするばかりだ。フィルモグラフィーでは出演作およそ百七十本を数える。そのうちわたしが観ているのは四十作余りだからまだまだ開拓の余地は大き…

瞬間日記抄(其ノ四)

「バーレスク」のクリスティーナ・アギレラのステージは魅力的だ。「月の輝く夜」のシェールの歌の場面がすくないのもよしとしよう。ただし、ノー天気なサクセス・ストーリーに、アギレラと店のバーテンダーで婚約者のいる男との恋愛や劇場の買収問題をぐた…

野口冨士男の昭和十六年十二月八日〜ノモンハン事件

野口冨士男『いま道のべに』の一篇「消えた灯ー新宿」に開戦の日のことが書かれてあり、その頁にわたしは附箋を付けていたと前稿に書いた。そうしながら、この日に野口が妻子とともに昭和館で「スミス都へ行く」を観た記述をまったく失念していた。 言い訳め…

野口冨士男の昭和十六年十二月八日〜「スミス都へ行く」

昨年八月の本ブログのさいしょの記事『映画となると話はどこからでも始まる』で、わたしは太平洋戦争直前まで「コンドル」や「スミス都へ行く」といったアメリカ映画が上映されていたとの淀川長治の回想を紹介したうえで〈日米開戦を前にどのような客層が映…

謹賀新年〜瞬間日記抄(其ノ三)

あけましておめでとうございます。 初春の願いを込めて「もしも月給が上がったら」からスタートします。「もしも月給が上がったら」という歌謡曲の一節に「もしも月給が上がったら/ポータブルなども買いましょう/二人でタンゴも踊れるね」とある。作詞は山…