2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

都心での森林浴 

クリストファー・ランドン『日時計』(丸谷才一訳)を再読した。去年末、創元推理文庫復刊フェアのなかにあるのを知り、買っておいたもので、むかし訳者の名前に惹かれて読み、はや三十年以上が経つ。内容はすっかり忘れていたが、読み進むうちに思い出され…

一九三九年のハッサンの塔(モロッコの旅 其ノ十三)

ムハンマド五世の霊廟とハッサンの塔はおなじ敷地にあり、市街が一望できる。 ハッサンの塔はモロッコの盛時を偲ばせるモニュメントであり、観光名所となっているが、フランスの植民地時代にはずいぶん荒れたところだったらしく、一九三九年にここを訪れた山…

『ナチを欺いた死体』

一九四三年七月十日連合軍はシチリア南方約百五十キロメートルの範囲から二十六の地点を選んで上陸を開始した。シチリア攻防の結果は第二次大戦全体の行方を左右するものだった。連合軍としては地中海における戦いの趨勢を決定的なものとすることにより、ヨ…

ラバト(モロッコの旅 其ノ十二)

カサブランカをあとにして首都ラバトに向かった。活気のある商業都市カサブランカに対してここは落ち着いたたたずまいのある都市だ。現国王ムハンマド六世とその家族が住む王宮、ムハンマド五世の霊廟、ハッサンの塔と並べてみると京都や奈良を思わせる古都…

「雪の轍」

チラシに「チェーホフ×シェイクスピア×シューベルト/人間の心を描く深遠なる物語」とあった。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督はトルコ映画界の巨匠と紹介されていて、これが日本での劇場初公開作品だそうだ。 チェーホフ、シェイクスピア、シューベルトいずれ…

ムハンマド五世広場周辺(モロッコの旅 其ノ十一)

一九一二年モロッコはフェズ条約によりフランス保護国となり、また北部の一部はスペインの支配を受けた。民族運動が盛んになったのは一九三0年代で、はじめはモロッコ人の政治的地位の向上をめざすものだったが、やがて独立を志向するようになった。 独立を…

『本で床は抜けるのか』

二0一二年二月ノンフィクション作家の西牟田靖は仕事場を鉄筋造り三階建てのシェアハウスから築五十年ほどの木造二階建てアパートの四畳半へと移した。引っ越し荷物の多くは本と本棚で、蔵書数は「少なくとも1000冊以上、2000冊以下というところ」だった。 …

大西洋を望む(モロッコの旅 其ノ十)

岩波新書に『モロッコ』という本がある。著者は山田吉彦。こちらは本名だが、ペンネームのきだみのるのほうがより知られているかもしれない。代表作に『気違い部落周遊紀行』があり、またファーブル『昆虫記』の訳者として知られる。 山田吉彦がモロッコを旅…

「チャイルド44 森に消えた子供たち」

冒頭、ウクライナの孤児院を脱走した少年が軍人に拾われ、このときレオと名付けられた少年はのちに第二次大戦でベルリンが陥落した際、さいしょにソ連の国旗を掲げた兵士として大きく報道される。 そして一九五三年。 スターリン体制下のソ連で、子どもを狙…

ハッサン二世モスク(モロッコの旅 其ノ九)

カサブランカは人口四百万人を超えるモロッコ最大の経済都市。首都ラバトをワシントンに比定すればここはニューヨークにあたる。旧市街は低い家並が櫛比し道路が入り組んだ雑踏の街、いっぽう新市街は高層ビルが建ち、広い道路にはたくさんの車が行き交う。 …

『落語を歩く 鑑賞三十一話』

成瀬巳喜男監督「女が階段を上る時」で銀座のバーで雇われマダムとして働く高峰秀子が体調を崩し、実家の佃島に帰り静養していて、そこへバーのオーナーである細川ちか子が見舞いにやって来るシーンがある。家を訪れる手前では小さな蒸気船が客船を曳いてい…

剣玉(モロッコの旅 其ノ八)

写真で後ろに立つ男が剣玉であそんでいる。「望郷」のぺぺ・ル・モコ(ジャン・ギャバン)の手下のボディガードで、剣玉は日本古来のあそびと勝手に決め込んでいたわたしはこの映画を観て「あれっ」と思ったものだった。調べてみるとあのあそびはフランスが…