2016-02-01から1ヶ月間の記事一覧

警視庁下谷警察署天王寺駐在所

はじめて読んだ佐々木譲の小説は『エトロフ発緊急電』だった。第三回山本周五郎賞と第四十三回日本推理作家協会賞(長篇部門)のダブル受賞に輝くこの小説の見事な出来栄えと面白さに読み終えるやいなや前作の『ベルリン飛行指令』にさかのぼり、次に『スト…

パリの散歩の余韻

ジュリアン・デュビビエ監督「パリの空の下セーヌは流れる」を再見した。セーヌ河のほとりを主たる舞台に人々の織りなす人生のスケッチ集には懐かしいシャンソンが彩りを添える。昨年の秋この界隈をほっつき歩いたので親近感はひとしおだ。テロによる戒厳状…

「人生は祭りだ、共に生きよう」(モロッコの旅 其ノ四十九最終回)

夜のジャマ・エル・フナ広場は聞きしに勝るにぎわいだった。民族楽器を響かせて繰り広げられる大道芸人のパフォーマンス、ところ狭しと軒を並べる屋台、みやげものや名産品を扱うお店、そして世界中から集い来る人たち。このカオスが生むエネルギーとエキサ…

追悼京極純一先生

二月十二日京極純一先生の訃報に接した。同月一日老衰のため東京都内の病院で亡くなられ、葬儀はご家族だけで執り行われた。享年九十二歳。 先生が一九八六年に東京大学出版会から上梓した『日本人と政治』には一九八一年夏の高知市での二つの講演が収められ…

クトゥビーヤ・モスクにかかる月(モロッコの旅 其ノ四十八)

マラケシュの夜が明けるとカサブランカへ戻り、イスタンブール経由で帰国の途につく。今回の旅はマラケシュがフィナーレとなる。そこでホテルで夕食をとるとわたしたちはさっそくジャマ・エル・フナ広場へと向かった。昼間も相当なものだったが、夜のにぎわ…

「フランス組曲」

フランスのレジスタンス文学を代表する作品として名高いヴェルコール『海の沈黙』を読んだのは大学生のときで、四十年以上経ったいまもしっかり記憶に残る、忘れがたい小説だ。 ナチス・ドイツに占領されたフランスの地方都市で、老人と若い姪が暮らす家が接…

マラケシュのにぎわい(モロッコの旅 其ノ四十七)

マラケシュはベルベル語で「神の国」を意味する。人口はおよそ90万人で、カサブランカ、ラバト、フェズにつぐモロッコ第四の都市だ。 ジャマ・エル・フナ広場では各地からやって来た芸人がパフォーマンスを繰り広げ、夜は広場いっぱいに屋台が建ち並ぶ。人口…

『「ふらんす」かぶれの誕生』

永井荷風の乗る信濃丸がカナダのヴィクトリア港を経てシアトル港に到着したのは一九0三年(明治三十六年)十月七日のことだった。父久一郎のすすめによる渡米だったが、荷風自身はフランスへの思いを断ち難く、渡仏志望が変わらぬことを父に訴えた結果、配…

「知りすぎていた男」(モロッコの旅 其ノ四十六)

アルフレッド・ヒッチコック監督「知りすぎていた男」の冒頭、パリでの医学会議を終えたベン・マッケンナ博士(ジェームズ・スチュアート)は妻のジョー(ドリス・デイ)と七歳になる一人息子ハンクとともにモロッコを訪れる。ここは彼のかつての従軍の地だ…

南イタリアへ(南イタリア周遊 其ノ一)

シチリア島をメインに南イタリアを旅してきた。シチリア関連映画の三幅対となると「山猫」「ゴッドファーザー」「ニュー・シネマ・パラダイス」といったところだろう。日本公開年は順に1964年、1972年、1989年で、「山猫」はだいぶんあとになって観たから、…