ジェームズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』は一九三四年に出版されて以降、一説によるとこれまで七回映画化されたそうだが、なかでわたしが知っているのは以下の四作品だ。
1 一九三九年ピェール・シュナール監督、フェルナン・グラベ、コリンヌ・リュシエール。以下の三作品は原作名で映画化されているが、本作だけが「最後の曲り角」とされている。
山田宏一の名著『美女と犯罪』によれば、フランスでは『郵便配達』が刊行された直後からジャン・ルノワール、ジュリアン・デュヴィヴィェ、マルセル・カルネの三巨匠が映画化を企図していたがピェール・シュナールが映画化権を獲得、そうしてゆきずりの男とともに夫を殺害するコーラ役に起用したのがコリンヌ・リュシエールだった。
2 一九四二年ルキノ・ヴィスコンティ監督、マッシモ・ジロッテイ、クララ・カラマイ
3 一九四六年ティ・ガーネット監督、ジョン・ガーフィールド、ラナ・ターナー
4 一九八一年ボブ・ラファエルソン監督、ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング
このうち234はDVDになっているが、1は日本ではむかし民放の深夜番組で一度放送されただけと聞いている。
わたしも知らなければ済んだものを知ったがために長いあいだあこがれつづけていた。ところが二0一六年のクリスマスの日にある方からYouTubeにアップされているとのお知らせをいただきようやくみることができた。そのときのことを本ブログ二0一七年一月五日付「年末年始」から関係する箇所を引用しておこう。
《「郵便配達は二度ベルを鳴らす」のさいしょの映画化は一九三九年ピエール・シュナール監督の「最後の曲り角」だった。このフランス版のあとにイタリアでルキノ・ヴィスコンティが一九四二年に、アメリカでティ・ガーネットが一九四六年に、おなじくボブ・ラフェルソンが一九八一年にリメイクをした。
本ブログ二0一三年五月七日の記事にわたしは、リメイク版はいずれもビデオ化されているのに「最後の曲り角」だけは片鱗すら現れず、二十年以上あこがれつづけていると書いた。小林信彦『小説探検』には「三九年のフランス映画版を観ている人を知らない」とある。ところが、クリスマスの日、この記事に「はじめてコメントします。最後の曲り角 Le Dernier Tournant のコリンヌ・リュシエールは、なんだか、恐怖のまわり道 Detour のアン・サヴェージを思わせて、私は魅力を感じませんが、あの物語には合っているかもしれません。原作に忠実で、殺されるミシェル・シモンは例によって素晴らしく、殺し場の緊張感や、ドライブイン前の風景、乱闘シーンの迫力など、見どころの多い作品です。今ではYouTube にアップされています」というコメントが寄せられた。思ってもみなかったクリスマスプレゼントをいただいた驚きと感激、そうしてこれまでの映画鑑賞歴のうえではまさしく「事件」である。
字幕はないけれどジェームズ・M・ケインの原作を読んでいればなんとかなります。作品については上のコメントにあるとおりでコリンヌ・リュシェールは清純派の女優が背伸びして悪女を演じている印象。あこがれの未見の必見作のお知らせに多謝!》
先日YouTubeで Le Dernier Tournantを検索してみたところ映画全篇のアップははなくなっていたが、一部をアップしたのが数本あった。関心のある方はあたってみてください。