「COLD WAR あの歌、2つの心」

二三か月前に映画館でもらった「COLD WAR あの歌、2つの心」のチラシに、ポーランドのモノクロ作品とあるのをみて、すぐに買い!を決めた。予断と偏見といわれれば甘受しよう。しかしわたしのなかにあるポーランドのモノクロ作品はハズレのない優れもの揃いなのだ。

アンジェ・ワイダ監督の抵抗三部作「世代」「灰とダイヤモンド」「地下水道」、ロマン・ポランスキー監督「水の中のナイフ」、イェジー・カバレロビチ監督「尼僧ヨアンナ」、同監督作品で主題曲「ムーンレイ」とともに偏愛する「夜行列車」、そしてパヴェウ・パヴリコフスキ監督「イーダ」などの作品群に、今回即決買いの勘が当たってパヴェウ・パヴリコフスキ監督の新作「COLD WAR あの歌、2つの心」がくわわる。

おなじモノクロ映画でも、かつての作品といまの高性能カメラで撮影した作品とでは色調や解像の度合などは異なっていても、ポーランド映画が追及してきたモノクロの映像美、光と影のコントラスト、失意や疲弊、憂愁など情感の優れた表現はわたしのなかで一貫している。

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冷戦時代のポーランド、歌舞団で歌手を夢見るズーラ(トマシュ・コット)と団のピアニスト、指揮者のヴィクトル(トマシュ・コット)とが出会い、恋仲となるが、スターリニズムの締め付けや歌舞団のありかたに嫌気がさしたヴィクトルは東ベルリンでの公演中に西ベルリンに逃れパリに亡命する。ズーラとは示し合わせていたが彼女は決断できず、二人は西側と東側に引き裂かれてしまう。

ズーラの公演先をヴィクトルは追い、逢瀬とすれ違いと別離を繰り返す。ヴィクトルの亡命から二年後、ズーラがようやくパリにやって来た。シチリアの男との結婚を名目にパリに出た彼女とヴィクトルの生活がはじまる。いっしょにジャズクラブに出演し、レコードデビューも果たす。しかしそのかん、故国から逃れた二人は、愛のもつれ、鬱屈、わだかまりからは逃れられず、ときにいさかいを重ね、不倫に奔る。そして、ある日突然ズーラは帰国してしまう。

ズーラの帰国に問題はないが、亡命者のヴィクトルには過酷な処遇が待っている。そのことはわかっていても失意のヴィクトルはいたたまれず彼女のあとを追う。

冷戦の時代を賢明に生きられなかったズーラとヴィクトルは、戦後を上手に生きられなかった成瀬巳喜男監督の名作「浮雲」の男と女を思わせる。ポーランド、パリ、ベルリン、ユーゴスラビアを舞台とする腐れ縁的な男と女の十数年にわたる破滅的な恋の道行きはピアニストと歌手との物語にふさわしく、ポーランドの民俗音楽、ショパンロシア民謡スターリン讃歌、ロック、東欧の匂いのするシャンソンやジャズなど多彩な音楽で紡がれて深い余韻を残す。

(六月三十日ヒューマントラストシネマ有楽町)