『こんな日本に誰がした』〜新聞記事を検証すれば・・・

インターネット上のコミュニティサイトなど想像もできなかった頃の話。東大の政治学の先生は政界裏情報を官僚から、早稲田のほうは新聞記者から貰う、それぞれの業界に教え子が多くいて都合がよいが、確度は前者が高く、偏差値の差はこんなところにもついて回ると聞いたことがある。 

しかし日本の政治くらい軽く論じられる人ならあやふやな裏情報などなくても大丈夫、プチ鹿島『お笑い公文書2022 こんな日本に誰がした!』(文藝春秋)はその証だ。(お節介ながら、この書名から、昭和二十二年に菊池章子が歌ってヒットした「星の流れに」の一節「こんな女に誰がした」が思い浮かぶ若い方はどれほどいるのだろう)

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本書は官僚や記者の裏情報など関係なく、表に出た新聞記事を徹底して読み比べたうえで日本の政治を論じた快作だ。読み比べ対象は十四紙にのぼる、つまり新聞記事を検証した政治コラム集である。執筆は二0二0年十月から本年一月にかけてだからウクライナ侵攻や安倍元首相銃撃事件、旧統一教会の問題は含まれず、時期的には 公文書がないとか改竄とかリーダーがろくな説明をしないとかの理不尽が罷り通った安倍、菅政権の話が主で、いずれも快なる話題ではないけれど、そこは「時事芸人」のウデの見せどころで楽しく読ませてくれる。

たとえば菅首相の答弁、討論をめぐり《首相側近は1対1で相手を説得するのは得意だ」とも語る》(産経新聞)について「いかがだろうか。『1対1で相手を説得する』という行間がとても意味ありげです。それは官僚とかNHKとかの場合じゃ、いえ何でもありません」といった具合だ。

岸田首相については批判を受ければためらうことなく方針を転じる、変わり身の速さ、融通無碍を可能にしているのは岸田自身のこだわりのなさといった報道をもとに「ビジョンがなくこだわりがない怪物はなんでも飲み込んでしまう。この調子でどこまで行くのか。私は『本当は怖い岸田政権』と名付けたい」と論じている。国のトップの日和見体質とブレが重なるのはたしかに恐ろしい。 

本書ではじめて知った著者の文業に今後とも期待したい。

なお、退職とともに世間を降りた意識が強くなり、 年金生活とともに新聞購読を止めたわたしにはこのかんの日本の政治のクロニクルとしてもまことに有益だったことを付け加えておこう。