「三姉妹」

第一感、脚本が光っていました。特筆すべきは姉妹三人のキャラクター造形で、次女役のムン・ソリが脚本に感銘を受け、共同プロデュースを買って出たというのも納得です。三人の人物像を具体化したキム・ソニョン(長女)、ムン・ソリ、チャン・ユンジュ(三女)の演技もお見事でした。

f:id:nmh470530:20220624155347j:image

細々と花屋を営んでいる長女。別れた夫との因縁が尾を引いていまなおその借金を返済中、さらには反抗期の娘から疎まれてばかりです。

次女は大学教授の夫、子供二人の四人家族で高級マンション住まい。キリスト教の信仰厚く、協会の活動にも熱心で、外から見れば人の羨む家庭なのですが……。

商売人の夫とその連れ子と暮らす三女は脚本家ながらスランプ状態にあって酒びたりと暴走の日々が続いています。

長女は揉めごとのたび、謝る必要もないのに謝罪の言葉が口をついて出ます。

エリートの家庭を営む次女は夫の浮気を知るとたちまち相手の顔が腫れ上がるまでブン殴る。夫と子供たちへの信仰の強要もハンパないものです。

自暴自棄の三女は夫にからみ、保護者面談日など関係なくとつじょ連れ子の中学校(高校かな?)の保護者面談に現れて、息子の生みの母と鉢合わせして大騒ぎをやらかします。

こうしてベクトルは異なっても否応なく浮かび上がるのは暴力です。それをイ・スンウォン監督(脚本も)はときにおかしく、ときにシリアスに、そしてなぜ暴力なのかを、姉妹の生い立ちにさかのぼって掘り下げてゆきます。薄皮を一枚ごとに剥ぐなんてものじゃない、瘡蓋をごっそり取り除くように、姉妹の両親、弟も登場させて。

そうすることで特別な家庭の、殊更な事情が暴力と関係しているのではない、韓国社会の家庭と女性のありようが見えてきます。それはまた世界の女性の普遍的な問題に通じています。

声をあげることはよいことです。でも、安易に大声で怒鳴り、わめき、感情を露出させる作品は困ったもので、感情の高ぶりを声の大きさで表現するのはチープな人間観だと思えてならないのです。

でも本作での三姉妹が声をあげ、感情を露わにするのはまるごと理解できましたし、そこに希望も感じました。

(六月二十三日 ヒューマントラストシネマ有楽町)