「仁義なき戦い」雑記帖(其ノ二)~NHKへの疑問

映画の公開四十年を期して二0一三年に発売された「仁義なき戦い Blu-ray Box」が手許にある。これには本篇全五部作にくわえ特典として「総集編」と「“仁義なき戦い”を作った男たち」が収められている。後者は深作欣二笠原和夫両氏の没後二00三年五月三日にNHK・ETVスペシャルで放送されたドキュメンタリーで、関係者の貴重な証言が多く収録されている。

撮影段階で早くも大ヒットまちがいなしと目され、シリーズ化された「仁義なき戦い」だが、第二部「広島死闘篇」の封切り後、広島市の防犯協会が中心となり同市でのロケはすべて不許可となった。脚本を執筆した笠原和夫は「なんでも、ありもしない暴力沙汰を描いて広島市が暴力の町のような印象を与える、というのが理由であったようだが、ありもしない暴力沙汰は一件も描いていない。実際はまだまだ多過ぎて割愛した程である。第一、こういう映画が堂々と広島ロケをして作るとなれば、現在の広島市がいかに平和な町であるかという立証になるのではないか」と反論したがとりあってもらえず江田島でのロケなどずいぶん苦労をしなければならなかった。そうした作品のドキュメンタリー番組がNHK・ETVスペシャルで放送されるようになったのだから世の中ずいぶん変わった。

けれど記憶する限りNHKは映画「仁義なき戦い」を放送したことはない。する気があるとも思われない。想像するに公序良俗やら視聴者からの批判を考慮して判断しているのだろう。仮にそうだとすればNHKは脇筋のドキュメンタリーのまえにまずは本篇の放送に取り組まなければならないのではないか。「ゴッドファーザー」は放送しても「仁義なき戦い」はしないのである。

いつだったかおなじNHKの「アナザーストーリー」で「時代と闘った男 日活監督たちの秘めた思い」という日活ロマンポルノのドキュメンタリー番組があった。そのときも、アナザーには本篇がなければならず、ロマンポルノ本篇の放送があってアナザーが成立するのであり、それもないのになにがアナザーかと思った。

仁義なき戦いを作った男たち」は優れた番組ではある、しかしわたしはもとの作品を放映していない、あるいはできないNHKがこうした番組を製作することに釈然としない。

アナザーを作りたければまず本篇を放送したうえで、それができないようならアナザーに手をつけるべきではない。