「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」

もう商売をやめて店を畳もうかと思案する孤独な老美術商オラヴィ(ヘイッキ・ノウシアイネン)がある日のオークションで惹かれた一枚の肖像画。画家のサインはなく、モデルがだれかもわからないから商品としてはリスキーすぎるが、魅力には抗しがたくあきらめきれなかった。それに画商としてのラストシーンで見出した謎の肖像画はことによってはひと財産もたらしてくれるかもしれない。オラヴィはやっとのこと競り落としたものの代金一万ユーロを用意するめどはたたない。

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そうしたときほとんど音信不通だった不仲の一人娘のレア(ピルヨ・ロンカ)から電話で、高校生の息子オットー(アモス・ブロテロス)の職業体験活動を頼まれる。非行歴がありほかに引く受けてくれる事業所がないためにやむなくかけた電話だった。

オラヴィは仕方なくオットーに店番や調べものの手伝いをさせる。スマートフォンをもたない祖父に孫がスマホを通じてもたらしてくれる情報は役に立ち、孫も祖父が執着する肖像画に関心を抱くようになる。

絵画をめぐる物語にふさわしくヘルシンキを主とするフィンランドの光景が素晴らしい。紅葉した公園、石畳の街路、都会の夜、明かりとりの窓から老人のアパートに差し込む光などなど。

オラヴィはどうやって金の手当てをするのか、謎の肖像画を手に入れられるのか、手に入れたところで何が待っているのか、絵画の謎は明らかにされるのか、真贋どちらに転ぶのか、それに娘と孫との関係の行方が織りなすドラマの着地はハッピー、それとも哀切、悲劇?

ヒューマンドラマとしても、またアートマーケットの実態を描きながら繰り広げられる予断を許さないサスペンス劇としても一級品だ。「こころに剣士を」に続くクラウス・ハロ監督の秀作だ。

(三月三日ヒューマントラストシネマ有楽町)