「僕たちのラストステージ」

一九二0年代後半から三十年代にかけて映画と舞台で人気を博した「ローレル&ハーディ」。チビで気弱なスタン・ローレルと、デブで怒りんぼのオリヴァー・ハーディによるチームは日本でも「極楽コンビ」の名前で親しまれた。

劇場を、映画館を満員満席にしたコンビだったが四十年代になると精彩を欠くようになる。喜劇映画のプロデューサー、ハル・ローチのもとを離れた影響から映画出演の制約も大きく、人気は下降していった。

そして一九五一年、二人はイギリスツアーで復活の大勝負に打って出る。「僕たちのラストステージ」(ジョン・S・ベアード監督)は人生の晩年にさしかかったローレルとハーディのイギリスでの出来事を描いた、もうひとつの「ライムライト」と呼びたい作品だ。

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期待して臨んだイギリス公演だったが、幕を開けると客席はガラガラで、かつての人気にすがろうにも、もはやそうはできない状態にあった。そこから二人の営業努力がはじまる。屈辱感はあってもコンビは観客を呼ぶ努力を惜しまない。そうしてステージを重ねるうちに客席はだんだんと埋まるようになり、人気を盛り返してゆく。

私生活でも仲良しだったと伝えられる二人だが、ときにいさかいや衝突は避けられず、しかし紆余曲折はあっても元の鞘に納まった。代わりになる人はいないのだ。

芸人のバックステージ物語は涙と笑いの人情噺の味を醸し出し、舞台の再現はコンビの芸をいまに伝えている。それも見事に。

ローレル役のスティーブ・クーガンとハーディ役のジョン・C・ライリーは絶賛に値する。ギャグに笑って、ダンスシーンにウキウキした。「バンドワゴン」でフレッド・アステアとジャック・ブキャナンの燕尾服姿の男二人のとても洗練されたダンスシーンがあり、「ローレル&ハーディ」のダンスはアステアたちのそれを泥くさく、お笑いを加味したもので、両者はおなじ根っこから生じた異なる色の花のようだ。

「ローレル&ハーディ」はチャップリンキートンとちがい「喜劇王」と呼ばれることはなかった。小林信彦『世界の喜劇人』にはこのコンビが「最高のコメディアンだったかどうかは賛否両論あるところ」とあるから、これに倣えば「賛否両論」の但し書きが付いた最高のコメディアンだった。

伝説のお笑いコンビの晩年の姿をよくぞ映画化してくれました!感謝です。

(四月二十五日丸の内ピカデリー