政治家の失言

 塚田一郎国土交通省副大臣四月一日、福岡県北九州市で行われた集会で、下関北九州道路構想が本年度から国による直轄調査となったことについて「総理とか副総理が言えないので、私が忖度した」と発言し、現職副大臣による公正さを欠いた利益誘導発言として野党はもとより与党内からも批判を浴びた。

 安倍総理の選挙区(山口県第四区)と麻生副総理の選挙区(福岡県第八区)をつなぐ道路を自分が「忖度」して個所付けをしたというのはありそうな話ではある。

 批判をうけ副大臣は四月三日の衆議院厚生労働委員会で「大勢の人が集まる会の席で、私自身がわれを忘れて誤った発言をした」と釈明に追い込まれ、このときは辞任を否定したが、翌日発言の責任をとるとして辞任した。

 これに負けてはならないとばかり、次には桜田義孝オリンピック・パラリンピック担当大臣が四月十日、高橋比奈子衆議院議員のパーティーで「(東日本大震災からの)復興以上に大事なのは高橋さんなので、よろしくどうぞお願いします」と言い放ち、こちらも辞任した。

 所属派閥を見ると塚田氏は麻生派桜田氏は二階派だった。塚田氏は親分の麻生太郎の名を刺青に彫っていると聞く。親分のほうも首をかしげる発言をよくなさる方だから似た者同士の親分子分である。

 政治家は国民の政治への関心を高めることも大事な仕事のひとつだから、その点で塚田、桜田両氏はよく仕事をなさっている。とくに桜田氏の失言、言い間違いは何回かにわたっていて、その都度物議をかもして政治への注目度を高めてくれている。

 なかには気の毒なやりとりもあって、「自分でパソコンは使っているのか」という質問に「秘書とか従業員に指示している。自分でパソコンを打つことはありません」と答弁したのをやり玉にあげられたのは同情にあたいする。

 そもそも天下の大臣にパソコンを自分で打つのかなどという愚問を発する野党の議員のほうがおかしいのであって、そんなことをいうのならスポーツ選手の経験のない行政職員はオリンピック、パラリンピックを担当できなくなってしまう。パソコンを打つかどうかに関係なく、政治家は予算取りや人事などを通じてサイバーセキュリティを推進すればよく、それにひょっとするとイギリスのガーディアン紙が論評したように「もしハッカー桜田大臣を標的にしても、何も情報を盗むことができない。彼は最強のセキュリティーかもしれない!」。

 塚田、桜田発言への批判は喧しいけれど、どちらも嘘というより、口にしてはいけない限界点を見損なったようだ。見識はともかくとして、本音をさらけ出してくれた点で両氏は正直な人なのだろう。

 政治家の失言の多くは本音の吐露であり、自身の思い込みの開示である。塚田氏の「忖度」は事実だと解釈したが、仮に、われを忘れて誤った発言をしたのであれば、思い込みの開示にあたる。

 辞任をしなければならない発言をするのは「下手」な政治家だが「下手があるので上手が知れる」というから、お二人とおなじ考えの「上手」な先生方も多数いらっしゃるだろう、というのはわたしの忖度である。

 塚田、桜田両氏が今回の「下手」を反省し、発奮して腕を磨いて「上手」となるかどうかはわからないけれど、「下手」もいて世の中であり、あまり無理をして体調など崩されないようご自愛を願っておきたい。