『クリード 炎の宿敵』

一九七六年に公開され大ヒットした「ロッキー」は以後シリーズ化され、一九九0年の第五作「ロッキー5/最後のドラマ」で打ち止めといわれたが、おどろいたことに十六年経った二00六年に「ロッキー・ザ・ファイナル」が、そうして二0一五年にはスピンオフ作品「クリード・チャンプを継ぐ男」が続いた。

このかんおよそ四十年、スクリーンでお付き合いしてきたわたしは、ロッキー・バルボアというかシルベスター・スタローンとともに年齢を重ねてきた感さえする。しかも「クリード・チャンプを継ぐ男」がじつに見応えのある作品で、「ロッキー」全六作に出来不出来があるのは否定しないけれど、新しい章がくわわったことで従来のシリーズの輝きが増した。そこでスピンオフもシリーズ化は必至だろうと予想したところ、やはり的中し、このほど二作目「クリード 炎の宿敵」が公開された。こちらも素晴らしいぞ。

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ロッキー・バルボアとアポロ・クリードフィラデルフィアで伝説的な戦いを繰り広げた。アポロの息子アドニスクリード(マイケル・B・ジョーダン)は早逝した父についてよく知らないまま育ったが、受け継いだ才能をリングに賭けてみたいと会社員からプロボクサーへ転身を図り、父の死闘の相手、ロッキーにトレーナーについてほしいと願い、ボクシングから身を引いていたロッキーはアドニスのなかにアポロを見て要請を受けたのだった。

今回の『クリード 炎の宿敵』では父アポロに強烈なパンチを浴びせ続け、死に至らしめたソ連のアマチュアボクシングヘビー級王者イワン・ドラゴの息子ビクター(フロリアンムンテアヌ)が世界ヘビー級チャンピオンとなったクリードの前に立ちはだかる。

こうして「ロッキー4/炎の友情」のアポロ対ドラゴの戦いは次世代による因縁の対決となる。しかもセコンドに付くのはかつての宿敵イワン・ドラゴとロッキー・バルボアであり、ロッキーに敗れたドラゴ(ドルフ・ラングレン、好演)は威信は傷つき、ロシア国内での立場も悪くして、以来、失意と苦悩をかかえたなかでのセコンド役だった。

ここから先は劇場で見ていただくほかないのだが、ネットで読んだ『WIRED』US版の批評に「『クリード 炎の宿敵』を評価するとしたら、安全な映画といったところだろう。心が欠けているということではなく、まさに予想通りに展開する作品だからだ」とあった。物語の展開は「定型」ではある。評者によると定型とは安全な映画を指すらしい。

しかし定型、安全な映画にもピンからキリまであり、わたしは「クリード 炎の宿敵」という定型そして予定調和の世界にひたりながら心は躍った。ボクシングの高揚と人情噺が映画的幸福をもたらしてくれた。

こうした経験があるからときに定型を外れたオフビートな作品やゲージュツ映画にも向かっていけるのだ。