「クリード チャンプを継ぐ男」

「ロッキー」に「クリード チャンプを継ぐ男」という新しい章がくわわった。そのことで三十年にわたる全六作のシリーズの輝きが増した。反歌を伴わない長歌に見事な反歌が詠まれたといった感じか。
シルベスター・スタローンの渋く抑えた演技、年齢を重ねたロッキーの姿に、このシリーズといっしょに自分も年を重ねたんだとしばし感慨にふけった。
シリーズ第一作が日本で公開されたのは一九七七年、わたしはまだ二十代だった。それから四十年近く経って、かつての「イタリアの種馬」ロッキー・バルボアはアポロ・クリードの息子アドニスのトレーナーとしてセコンドに付いた。そう、世界ヘビー級タイトルマッチで本来の対戦相手が負傷したために、この際、無名選手にアメリカン・ドリームの機会を与えて盛り上げようと、ロッキーを選んだあのアポロ・クリードの息子だ。

アドニスクリードの生まれる前に父アポロは亡くなっていた。「ロッキー4/炎の友情」でソ連マチュアボクシングヘビー級王者イワン・ドラゴのパンチを浴び続けたアポロはリング上で帰らぬ人となった。息子は父についてよく知らないまま育ったが受け継いだ才能をリングに賭けてみたいとの思いはあって、それが飽和点に達したとき彼は勤務先を辞めてボクサーをめざした。そうして父が伝説的な戦いを繰り広げたフィラデルフィアで、死闘を繰り広げた相手のロッキー・バルボアにトレーナーになってほしいと願い、ボクシングから身を引いていたロッキーはアドニスのなかにアポロを見て引き受けたのだった。
「ロッキー」の光を浴びるのだから「クリード チャンプを継ぐ男」はしあわせな映画だ。しかしそれは企画段階で言えることであり、作品が照射に応える出来栄えになるかどうかはまた別問題だ。それだけに緊張感はたいへんなものがあったと想像する。結果は監督のライアン・クーグラーアドニス役のマイケル・B・ジョーダンのコンビは素晴らしい「ロッキー」新章を作り上げた。ロッキーからクリードへ、感銘のたすきの受け渡しである。
(二0一五年十二月二十八日TOHOシネマズ六本木ヒルズ