「ちはやふる−結び−」

ちはやふる−上の句−」「ちはやふる−下の句−」で瑞沢高校競技かるた部の一年生だった綾瀬千早(広瀬すず)が三年生になってスクリーンに帰ってきた。おなじく進級した真島太一(野村周平)、綿谷新(新田真剣佑)、大江奏(上白石萌音)たちとともに。
千早は大学進学を希望していて進路希望調査に具体に学校名を書くように求められるが心はかるたでいっぱい、だから進学先にまで思いは至らずなかなか決められない。やむなく進学希望校の欄には競技かるたの女王「クイーン」と書いて宮内先生(松田美由紀)に提出し、高校生活最後の全国大会に向けて動き出す。さいわい個性派の新入部員がくわわった。
いっぽう藤岡東高校に通う綿谷新は全国大会で千早たちと戦うため、かるた部創設に奔走している。

ちはやふる」全三作いずれも素晴らしい青春物語だ。いつだったか書店で『青春の終焉』という本が平積みされているのを見て、青春がなくなったりしちゃ、あとからしみじみ思ったりできなくなるからお手軽に終焉させたりするなよ、そういえば青春という言葉をあまり聞かなくなったなあ、どうしてだろうと考えたりしたことがあった。でもそんなことを吹き飛ばすように「ちはやふる」には青春が息づいている。青春の肯定に満ちている。
競技かるたという闘いに勝者も敗者もいるけれど、憎しみや不機嫌は皆無であり、穏やかさ、そして寛容が漂っている。この映画のさわやかさはそこから来ている。ヒット作となったのは日本人がそれらを求めている証なのかもしれない。
何かといえば役者に叫ばせ、わめかせて感情を表現することの多い昨今の日本映画だが、小泉徳宏監督はそうした手法を排し、落ち着いたたたずまいのなかに競技かるたに打ち込む高校生たちの心のときめき、ひたむきな情熱、闘志をしっかり描いている。演技指導というより人間観を讃えたい。
えっ、綾瀬千早の進路はどうなったかって?映画のラスト一瞬をご覧あれ。
(三月二十四日 TOHOシネマズ上野)

附記
ちはやふる」の原作は末次由紀という方の同名のコミックだそうだ。そういえば広瀬すずの出演作「海街diary」も吉田秋生の漫画が原作だった。漫画とはご縁がなくて、これまで通読したのは滝田ゆう『寺島町奇譚』のみだが、映画化された二つの作品は、全巻通読は無理だろうが、すこしだけでも読んでみたい。