「女神の見えざる手」

米国のロビー活動と諜報戦を巧みに組み合わせたスリリングな物語だ。
マキャベリストのキャリアウーマンを軸に銃規制法案をめぐる攻防を描いた脚本を執筆したのはジョナサン・ベレラ、脚本術を独学で学んだ元弁護士で、本作がはじめての作品というからおどろきだ。監督は「恋に落ちたシェイクスピア」「マリーゴールドホテルで会いましょう」のジョン・マッデン

一九九九年に下院議長の有力候補となりながら、セックス・スキャンダルに見舞われ議員辞職したボブ・リヴィングストンは、辞任後ロビー会社を設立し、創業から六年間で年間四千万ドルの売り上げを記録した。アメリカの政治におけるロビー活動の影響力をうかがわせるエピソードだ。
そうした大手ロビー会社に所属する敏腕ロビイスト、エリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)が上層部から銃規制を強化する法案の議会通過を阻止する活動を任されるが、彼女はその仕事を断り、法案賛成の立場で活動する中小の会社に四人の部下とともに移籍し、法案を可決させるべく奔走する。
難局を乗り越え、法案通過が見通せそうになった矢先、古巣のロビー会社が彼女の不正疑惑と私生活上の問題を暴く挙に出る。くわえて彼女のスタッフで、高校生のとき銃乱射事件を目の当たりにした女性に予想外の事件がもちあがる。
ヒリヒリする心理戦と頭脳戦の果てにエリザベス・スローンは銃規制に反対する議員が議長を務める議会の聴聞会で窮地に追い込まれてしまう。逆転のために彼女が仕込んだ秘策は、みてのお楽しみ。
銃規制は彼女の信念であり、困難な仕事を達成することでロビイストとしての価値を高めるためのものでもあった。どちらの成分が強いのか注視したけれど判断できなかった。謎と想像の余地を残した人物造型であり、信念か栄達かといった単純な二択を拒否した主人公をクールに、切れ味鋭く演じたジェシカ・チャステインが光る。かっこいい。
大手ロビー会社と有力議員による攻撃、対抗するエリザベス・スローン、双方とも勝つためには謀略も辞さない。駆け引きが肥大化するとともに言論と目的のためにとられる手段の正当性の問いかけはどこかに追いやられている。アメリカの政治の一面を拡大してみせたのかもしれない。
ラストのエリザベス・スローンの視線は何に向けられていたのだろう。あれこれ想像をめぐらしながら劇場をあとにした。
(十月二十六日TOHOシネマズシャンテ)