「ハウス・オブ・グッチ」

グッチオ・グッチによって一九二一年に創業されたイタリアのファッションブランドGUCCI創業家の興亡に目を凝らしつづけた159分でした。一九七八年からおよそ二十年にわたるグッチ家の繁栄、抗争、確執、悪行、愛憎などを盛り込んだ長尺のドラマをだれることなく撮りきった、それだけでもこの映画の魅力の証左となるでしょう。

冒頭、事実にインスパイアされた物語と説明がありましたが、映画と事実の異同といったむつかしいことはさておいて、わたしは現代史を素材にしためずらしい歴史絵巻を北イタリアの美しい風景とともにたのしみました。リドリー・スコット監督は登場人物の内面に踏み込むのを抑え、一族の行方を俯瞰する視点で描写していて、賛否はあるでしょうが、深い心理描写とかゲージュツの苦手なわたしは◎。

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運送会社の娘パトリツィア(レディ・ガガ )が、ミラノでのあるパーティーGUCCI創業者の孫マウリツィオ(アダム・ドライバー)と知り合い、玉の輿に乗り、やがてマウリツィオの伯父アルド(アル・パチーノ)に誘われGUCCIの事業に深入りするようになります。

イタリア訛りの英語まで身につけて臨んだレディ・ガガ、イタリア版肝っ玉お嬢の野心と欲望の高度成長を演じてお見事でした。そうしてさほど会社経営に関心はなく、弁護士を志望していた夫マウリツィオも煽られまくって色と欲の世界にのめり込んでゆきます。これに狡猾なアルドと、その息子で凡庸ながら野心だけは一人前のパオロ(ジャレッド・レト)さらには犯罪集団までもが絡みます。

抗争はマウリツィオの父で、パトリツィアを金めあての嫁と嫌ったロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)の死を契機に激化します。遺産の株式の争奪、騙し合い、裏切り、夫婦間のねじれともつれ、その果てに待つ創業家の末路。

たとえ満足する状態にあってもそれは一時的なことであり、栄枯盛衰、万物流転が自然と社会の原則です。そのなかで 夢に人生を浪費したパトリツィアやマウリツィオたち。夢のスケールを問わなければその姿はわたしたちの自画像に何ほどかは通じています。

(一月二十七日 TOHOシネマズ上野)