「モガディシュ 脱出までの14日間」

実話をもとにした作品です。朝鮮半島でどれほど広く知られている話なのかはわかりませんが、こんな出来事があったなんて、わたしには驚きの現代史秘話でした。

一九九0年ソウルオリンピックを成功させた韓国は余勢を駆って国連参加を目途にアフリカ諸国との外交を活発化させています。対する北朝鮮は韓国に先んじてアフリカ諸国との外交活動を強化しており、こちらも国連加盟をめざしています。ちなみに韓国と北朝鮮の国連加盟が承認されたのは一九九一年九月十八日ニューヨークで開かれた第四十六回国連総会でした。

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アフリカは国が多く、したがって国連での票数も多いことから国連加盟を期する両国にとって重要な地域でした。南北はアフリカ諸国との外交をめぐり妨害工作や情報操作を繰り返していたのですが、九一年に入るとそれらを吹き飛ばす事態が勃発します。ソマリア内戦の激化です。以前から続く政府軍と反乱軍との対立がここへきてはなはだしいものとなり、首都で最大都市のモガディシュはたちまち荒廃するところと化しました。暴力、略奪、あちらこちらに転がる遺体、銃をまるでおもちゃのように振りかざす子供たち(少年兵)など、どんなふうに撮影したかはわかりませんが、痛ましい現実の再現はこの映画の大きな見どころとなっています。

まもなく各国大使館が焼討ちや略奪に遭うようになり、北朝鮮大使館では守備していた政府軍が逃亡し、反乱軍の襲撃がはじまりました。わずかの時間のずれで韓国大使館を守る政府軍も逃亡するのですが、この時点では韓国大使館には政府軍がいて、北朝鮮大使は悩んだ末に仇敵の韓国大使館へ助けを求める決断を下します。

韓国大使館へやって来た北朝鮮大使、大使館員とその家族。たとえ生き延びたとしてもあとでどのような扱いを受けるかわかりませんが、いまを生きるための禁じ手はやむをえない選択でした。韓国側も政治と人道のはざまで揺れ動きます。南北の折衝、南による北の受け入れはもちろん一筋縄ではいきません。しかし脱出には両国のチームワークが優先されなければならず、物語は大脱出劇の様相を帯びることとなります。

おそらく、関係者の悩みと葛藤をつぶさに描写してヒューマンドラマ仕立てにするほうがよかったとの意見もあると思います。でも本作は南北両大使館員とその家族の連合チームの手に汗握る大脱出劇に大きく舵を切ります。わたしはそこにリュ・スンワン監督をはじめとするスタッフのアクション全開の心意気を感じました。

(七月十二日 新宿ピカデリー