「がめつい奴」や雪の根津神社のこと

一月二十四日
ちょっとした懸案事項があり、それが昨日片づいたものだから、うれしくなって急遽散歩をかねて神保町へ出かけ、スターバックスで一時間余り本を読んだあと、神保町シアターで上映の「川口家の人々」の一本「がめつい奴」を観た。一九六0年の東宝作品。
釜ヶ崎の強欲婆さんを中心とする群像劇はなかなか小気味よく仕上がっていて、よい気分である。出演している役者さんの多くがはつらつとして生きがよい。コテコテの装いで強欲婆さんを演じる三益愛子とすっとぼけた子役の中山千夏のコメディエンヌぶりは話に聞いていたが、森繁のチョイ悪紳士ぶりにくわえ高島忠夫、団令子、原知佐子といった面々が生き生きとしていた。なかで森雅之の女たらしの三流詐欺師がやりつけない役柄で、ちょいと窮屈そうだった。
古川ロッパの日記を実家に置いたままにしてあるものだから確認がとれないのだが、ぱらぱらとめくっているうちに、昭和十二、三年頃、ロッパ一座の役者の休演が相次いで、ロッパと三益愛子が漫才をしたという記事を目にした記憶がある。もともとお笑いに長けた女優が菊田一夫の原作を得て、舞台、映画、テレビで生涯の当たり役としたのが「がめつい奴」だった。一度、ロッパとの漫才も見てみたかったですねえ。



監督は千葉泰樹。昨年十月、神保町シアターでは「一年遅れの生誕百年映画監督千葉泰樹」の特集を組んでいた。「下町」「へそくり社長」「羽織の大将」「大番」シリーズ等、振り返って千葉作品に不満を覚えたことがない。そつがなく堅実で、野球でいえば安打製造器。東宝藤本真澄プロデューサーは千葉を東宝の映画監督の野球チームでいえば一番バッターに挙げている。クリーンナップに据えられているのは、成瀬巳喜男黒澤明稲垣浩である。
クリーンナップのほうで「がめつい奴」の対になるのは「どん底」だろう。ずいぶんお目にかかっていないので、今度は「がめつい奴」を念頭において、映画的快楽という尺度で見直してみよう。
映画がはじまったのが午後七時十五分、終映が九時三分。映画館へ入るときには冷たい雨だったのが、出ると大降りの雪で、早くも道路が滑りやすくなっていた。
といった次第で、きょうは積雪の朝を迎えた。さっそくお近くの根津神社へ行き、お詣りのあと写真を撮ってきました。
雪によせて何か文章も添えなければと、昨夜の雪から書こうとして映画の記事になっちゃいました。花鳥風月、雪月花に弱い野町です。乞御免。

                     

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