2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「幸せへのキセキ」

一歩あやまると下手な人情話になりかねない素材が爽快で心暖まる端正な作品となった。「幸せへのキセキ」を観ての第一印象で、いちばんの要因は人物の造型と脚本が優れていることにある。 半年前に妻を亡くしたコラムニストのベンジャミン(マット・デイモン…

ご近所散歩

ある友人から、ご近所の散歩についての記事をはじめたの?という質問メールをいただきました。そうなんですよ、気の向いたとき、一枚の写真と短文で散歩したところを紹介してみよう、大好きな地域に居住しているんだもの、それくらいのことやらなくちゃもっ…

桂三木助墓所

半年ほどまえの新文芸坐落語会で立川志らく師匠が「時そば」のまくらで、談志師匠が亡くなってからテレビがしょっちゅう「芝浜」を流すものだから、いまや一番有名な落語はあの噺になっちゃったと話していた。そうかもしれませんね。それまでは「時そば」だ…

本郷信楽町

本郷三丁目のスターバックスで珈琲を飲みながら本を読んでいて、ふと窓の外を見ると菊坂通りの夕暮れに燈が灯った。ここから坂を下りてゆくと樋口一葉が使っていた井戸や彼女がよく通った伊勢屋質店がある。 レトロな感じの燈を見ているうちに吉田健一の『東…

雑誌「こぺる」の終刊に思う

このほど雑誌「こぺる」(こぺる刊行会)七月号に拙稿「『高度の平凡さ』について」が掲載された。 「高度の平凡さ」は太平洋戦争の帰趨にきわめて大きな意味を持ったレイテ島での闘いをめぐって米国の歴史家フィールズが述べた言葉だ。 フィールズはいう、日…

『にんげん蚤の市』

一九三七年(昭和十二年)高峰秀子は五歳のときから専属として働いていた松竹を離れPCL(のちの東宝)に移った。原因は彼女の義母と松竹とのトラブルだったが、義母から許諾の返事を求められて彼女は気に染まず、金に転んだと思われるのもいやで「私がい…

「あの日 あの時 愛の記憶」

アウシュビッツの収容所からの逃亡に成功した男女が生き別れになり、三十数年後に再会をはたしたという実話を基にした作品。 邦題「あの日 あの時 愛の記憶」は甘ったるいようだけど内容的にはその通りの説明となっている。ドイツ語原題は「DIE VERLORENE ZE…

東映任侠映画の日々

桜町弘子さんのトークショーが予定されているので朝からイソイソと加藤泰特集の新文芸坐へ。まずは初見の「骨までしゃぶる」。桜町さんは、配役のトップに一行で名前が出た唯一の映画とおっしゃって感慨深げだった。 一九六六年(昭和四十一年)の公開だが御…

『地震雑感/津波と人間 寺田寅彦随筆選集』

本書は関東大震災をはじめとする災害や事故をめぐる寺田寅彦の随筆、論説を集成した中公文庫の一冊。千葉俊二、細川光洋両氏による編集で巻末には細川氏による親切な註解があり理解を助けてくれる。 一九三三年(昭和八年)三月三日に起きた釜石市の東方沖を…