電子辞書

二00七年に書いた「電子辞書の時代に」というエッセイに、わたしは、大学院で英文学を専攻する知人から聞いた話として、電子辞書があるので特段の必要がない限り教室に紙の辞書を持参する院生はいないと書いていて、すでにこのころ大学では辞書は頁を繰って引くのではなく、キィ・ボードを打って調べるのが主流となっていたようだ。

そうはいってもわたしは辞書を引いてきた「昭和の子」なので電子辞書には見向きもしなかった。ところが昨年とうとう電子辞書の傘下にはいってしまった。

きっかけは辞書ではなく歳時記だった。以前から大型の歳時記がほしかったが、春・夏・秋・冬・新年と五冊の大型本となるとコンパクトにまとめられた一冊本より使い勝手が悪そうだし、置き場にも困るので敬遠してきた。

それがふと思いついて電子本の書目を調べてみたところ、あこがれの大歳時記があり、すぐさま購入してKindleiPhoneiPad miniに入れた。そこからさらに大歳時記をもっと使いこなすには国語辞典や古語辞典といっしょになった電子辞書がよいかもしれないとこちらも調べたところ、CASIO EX-wordのいくつかの機種のなかに格好のものがあった、というのがわが電子辞書ことはじめである。

たしかに便利でメニューは充実していて高齢者の玩具として申し分なく、長年親しんできた中国語辞書も、ご無沙汰したままの英語辞書もこのさい電子辞書にしてみようという気になった。歳時記のはいったものは日本語辞書が充実し、英語辞書はあるが中国語辞書はないので中国語の充実した機種を買い、さらによい機会だから英語の復習もしてみようと、辞書のほかに大学受験のための参考書やリーダーが多数収められている機種も入手し、かくて三台の電子辞書をもつ身となった。

電子辞書で学習した成果をひとつお披露目しておきます。

収められている英語の参考書に、英語の人称代名詞をandでつなげるときは「二人称→三人称→一人称」という順番が慣用的に決まっているとあった。「You and I are good friends. 」という言い方は知っていても、どうしてなのかは考えたことがなかった。勉強には疑問が大切なのに。

つぎにフレッド・アステアシド・チャリシーが主演した大好きなミュージカル「バンドワゴン」で用いられていた名曲「あなたと夜と音楽と」が浮かんだ。

「You and The Night and The Music 」(アーサー・シュワルツ作曲、ハワード・ディーツ作曲)、人称代名詞のつぎに夜、そのあとに音楽がくるのは普通名詞では時間帯を先にする、そしてコール・ポーターの名曲「Night and Day」から推して昼と夜とでは夜が先にくるといってよいのかな。いやいや、day and night もありだ。うーん、よくわからない。

ついでながら慣用的に順次が決まっているものとして「cup and saucer」「salt and pepper 」「pencil and paper」「mother and father」(日本語の父母とは逆ですね)「black and white 」「toast and tea」「rice and miso soup」などが挙げられる。

電子辞書にはたくさんの英語の読み物があり、なかに「オズの魔法使い」があった。ジュディ・ガーランド主演の映画「オズの魔法使い」の原作はライマン・フランク・ボームが一九00年に発表した同名の児童文学小説で、わたしが読んだのはやさしくリライトしたものだが、そのなかにドロシーが「ToTo and I are hungry.Let’s stop at the next house.」という場面があり、並列のばあい、わんちゃんであっても ToTo がわたしドロシーより先に来ている。