「天空散歩」(2016晩秋のバルカン 其ノ二十九)


手許のガイドブックに、城壁を散歩しながら市街を一望するのはまるで「天空散歩」だとあり、その表現に旅心はますます刺激された。
一三五八年にハンガリー王国から独立し、ドブロヴニクを本拠とした都市国家にラグサ共和国がある。海洋貿易によって栄えたこの都市国家アマルフィ、ピサ、ジェノヴァヴェネツィアとともに五つの海洋共和国に数えられた。とくに十五、十六世紀にはアドリア海および地中海貿易により絶頂期にあったが一八0六年にナポレオン軍に屈した。
紺碧のアドリア海と赤い屋根の家々を眺めていると別の世界の出来事と思いたいが、一九九一年のユーゴスラビア崩壊に伴う紛争ではクロアチア人が九割近くを占めるこの街はセルビア・モンテネグロ勢力により七か月間包囲され、砲撃を受けた。