シルクロードを走る〜ウズベキスタン旅日記(其ノ二)

サマルカンドにあるシャーヒ・ズィンダ廟群は儀式用の建築物と霊廟から成っていて、十一世紀から十九世紀にかけて建てられた二十余りの建造物の集合体はイスラム建築群の精華として威容を誇っている。

ウズベキスタンの国民の多くはイスラムスンニ派で、旧ソ連領だからロシア正教徒もいるものの厳しい宗教対立はなく、イスラム色は強くても勤務時間中に何度もお祈りしていては仕事にならないから、そんな習慣はない。現地のガイドさんは、これらをソ連の政治のいちばんよい影響だと語っていた。宗教について寛容の度合が高く、対立の要素が稀薄なぶん安全で、治安はよく、それに他国が分捕りたい資源もないものですから、とこれもおなじガイドさんの弁。
ただし二00五年五月十三日に東部アンディジャンで反政府暴動があり、この鎮圧で市民に多数の死者が出たとの情報があり、ヨーロッパ諸国、国連などから人権侵害の非難の声があがった。いっぽう当時のカリモフ大統領はイスラム過激派による武力蜂起だとして欧米側による報道を批判した。
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ウズベキスタンの古都サマルカンドシルクロードの要衝として栄えながら、十三世紀のモンゴル軍の襲来により廃墟と化した。この地を甦らせたのがティムール朝の建国者であり、中央アジアの軍事的天才と評価されるティムール(1336-1405、在位1370-1405)だった。
彼は世界に冠たる美しい都市を志向して、遠征した地から優れた技術者、芸術家を連れ帰り、そのなかから中国の陶磁器とペルシアの顔料とが出会ってサマルカンド・ブルーと呼ばれる青色のタイルが生まれた。サマルカンド・ブルーのタイルは文化が交叉する都市の姿を象徴している。

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サマルカンドの中心にあるレギスタン広場は、この都市でもっとも有名な観光地であり、かつてはシルクロードの重要ポイントであった。「砂の場所」という意味をもつこの広場の中央、左右にはマドラサ神学校が建つ。

モンゴル軍の来襲以前はアフラシャブの丘が街の中心だったが、以後はこの広場に中心が移った。十四世紀、ティムールの治世には大きな屋根付きのバザールがつくられ、十七世紀に現在の外観が整えられた。ここでもシルクロードを走るミッション、遂行だ!
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ティムール朝建国者ティムールとその家族を祀るグリ・アミール廟。グリ・アミールはペルシア語で王の墓を意味する。青いドーム状の建築物のなかにはティムールと息子シャー・ルフ、ミーラン・シャー、孫のウルグ・ベク、ムハマンド・スルターンそしてティムールの師であったサイイド・バラカが眠っている。

ソ連時代には封建社会の支配者であるティムールを讃えるのは禁止されていた。それが一変したのが一九九一年のソ連の崩壊で、新しく生まれたウズベキスタン共和国ナショナリズムの核にかつてのティムール帝国を据え、まもなくティムールにゆかりのある地には彼の銅像が建てられた。
たとえば首都タシケントの中央に位置するアミール・ティムール広場にもティムール王の銅像が建っている。ソ連時代にはレーニン像が建っていたが、ティムールの騎馬像がとって代わった。レーニン像からティムールの騎馬像はこの国のナショナリズムの変化を象徴している。
なお騎馬像のうしろにある白い丸屋根の建物は法科大学院

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サマルカンドからおよそ100km離れたシャフリサブスへ。バスでの山越えができないためセダンに分乗して向かった。シャフリサブスはかつての中央アジアの主要都市であり、ティムールが誕生した地としても知られており、ティムールの再評価とともに観光地化が進んだ。
銅像のうしろには十五世紀ティムール朝の時代の建物が見えていて、2000年にはこの地区一帯がユネスコ世界遺産に登録された。
シャフルサブスはペルシア語シャフレ・サブズ(緑の町の意)に由来している。整備された町の写真からは緑にあふれるオアシスが想像される。
ところが2016年の第四十回世界遺産委員会で、こうした整備が観光のための過度の開発として問題視され、危機にさらされている世界遺産危機遺産)リストに登録されたのだから、世の中、やっかいなものだ。

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シャフリサブスからサマルカンドへ戻り、ビビハニム・モスクを見て、すぐ近くのショブ・バザールでショッピング。写真はモスクのミナレットで、新しく、美しいということは再建築されたもので、そのぶん歴史的価値は低い。1897年の地震でモスクの相当部分は崩壊し、1947年になってようやくソビエト政府が再建を承認して工事がはじまった。

いっぽうのショブ・バザールは六百年まえにモスクが建てられたときとおなじに賑わっている。岩塩や香辛料を買うのに忙しくて、気がつけば写真を撮り忘れていた。そのあとホテルで民族舞踊、民族楽器のディナーショーを楽しんだ。