「フリー・ファイヤー」

その昔、関西を本拠とする大暴力団が分裂して衝突を繰り返していたころ、ある飲み屋で、かたぎのおじさんたちが抗争ネタを話題にしているうちに、なかの一人が、どこかひとところに連中を集めてドンパチやらせたらよい、そのほうが市民に迷惑がかからない、と言ったところ傍にどちらかの系統の組員がいて不穏な空気になったとか。
マーティン・スコセッシ製作総指揮、ベン・ウィートリー監督「フリー・ファイヤー」はあのおじさんの意見を娯楽作品として昇華させた、じつにおもしろい密室銃撃戦映画だ。

一九七0年代、ボストンの廃屋となった工場にアイリッシュ系ギャングと武器商人の一味が大量の銃火器の闇取引のためにやって来る。ブツとカネを確認しあったところで取引は無事に終わろうとしていた。ところがそこで思わぬイザコザが起き、こじれたあげく銃撃戦となり、廃工場は女性一人を含む十人の登場人物の罵声と銃弾が飛び交うところとなる。
難を言えば人物描写は簡単に切り上げてアナーキーな抗争に突っ込んだものだから人物によってはどちらの陣営に属しているのかわかりにくい。些細なことだけどね。
ブリー・ラーソンアーミー・ハマー、シャルト・コプリー、キリアン・マーフィら役者陣が演ずるのはいずれも一発必中のスナイパーとは真逆の、むやみに撃ちまくる凡庸なチャカの使い手ばかりだ。殺(と)れ、殺(と)ったれと意欲は旺盛だが技術が追いつかないために弾が当たるのは肩、脇腹、太腿といった中途半端な部位が多く、そのためスピード勝負とはならず、銃撃戦は長期戦の様相を帯びるのだった。
豪華キャストのなかで紅一点、「ルーム」のブリー・ラーソンがかっこ良さとうさん臭さを併せ持つ格段の魅力を放つ。
「あんた、まさかFBIじゃないだろうね」
「あたしはJTY」
「それって、なんだい」
「じぶんのためにやる」
この映画を敢えてジャンル分けすればクライムアクションではなくコメディの範疇に入れる。閉ざされた空間での銃撃戦は笑劇に転じやすいのだろうか。そういえば「仁義なき戦い」は喜劇映画としても一流だった。
対立する二つの組員を一箇所に集めて闘わせるという例の意見はかたぎに累を及ぼさないという社会正義に発するものだったとしても、渦中にあって命を懸けた者に笑いの匂いを及ぼしていたはずで、不穏な空気になるのは避けられなかったのである。
(五月三日新宿武蔵野館