「ドント・ブリーズ」

「Don't Breathe」。ゲイジュツ関係おまへんとひたすらホラーとショックとサスペンスを追及した、昔風にいえばB級プログラムピクチャーの匂いただよう作品で、観客は「息をするな」のタイトルでなくても、おのずと息をひそめてスクリーンをじっと見つめることになる
出演者は少なく、いずれもわたしの知らない役者さん、それにほとんどのシーンはさほど広くはない二階建ての家のなかという低予算の典型のような映画だが、念のためにいわせていただくと低予算のオモシロ仕様作というのはそれだけ基本的な観点と考え方、これらに即した脚本がしっかりしていて、工夫もされているということだ。たとえば盲目の老人と三人の強盗とが対峙する屋敷のセットにはいろんな趣向が凝らされていて、息もできないまでに追いつめられてゆく恰好の装置となっている。

デトロイトのある町に盲目の独居老人がいる。中間層、富裕層に見捨てられた町ではあるが、この老人は交通事故で亡くなった娘への慰謝料をしっかり貯め込んでいるという。それを聞いた不良グループの三人の若者が老人の家に押し入る。このうえないおいしい話のはずだった。ところが案に相違してかれらは怖ろしい極限状況に突き落とされてしまう。
というのも老人は視覚を持たないながら超人的な聴覚を具えており、優れた格闘能力も身につけていた。異様な性格からくる悪辣な手法にも事欠かない。老人に追いつめられた三人は命がけで屋敷から脱出を図らなければならなくなる。もちろんここから先は書けません。
過去の作品を引き合いに出せば、オードリー・ヘップバーンが盲目の女性に扮した「暗くなるまで待って」に巧みな捻り技をほどこしサイコ風味のスパイスをくわえた娯楽作品といったところか。
監督はサム・ライミ製作のリメイク版「死霊のはらわた」のフェデ・アルバレス。お金がないと文句垂れるのではなく、所与の条件で思いっきり素敵な作品を作る、そうした姿勢が潔く爽やかだ。
低予算のオモシロ映画に乾杯そして栄光あれ。
(十二月十六日TOHOシネマズみゆき座)