ベレンの塔(西班牙と葡萄牙 其ノ五十二)


ジェロニモ修道院とおなじくマヌエル一世の命により建造されたベレンの塔。こちらは一五一五年に工事がはじまり二一年に竣工した。ヴァスコ・ダ・ガマの業績を記念した灯台であるとともにテージョ川河口を見張る要塞としての機能も具えていた。
一五八四年七月五日伊東マンショ千々石ミゲル中浦ジュリアン原マルチノ天正遣欧使節が乗るサンティアゴ号はカスカイスに投錨し、翌日リスボンに入った。そのときの情景を『天正遣欧使節』の著者松田毅一は次のように叙述している。
「カスカイスの沖で投錨して、昂奮のうちに一夜を過ごしたサンティアゴ号は、翌日、厳かにテージュの大河を遡っていった。河上に浮かぶベレンの城塞からは祝砲が轟いた。その彼方には壮麗極まりないサン・ジェロニモ修道院がくっきりと偉容を見せ、やがて左舷には視界一ぱいに目もまばゆい白い大都市が展開した」。