「THE GUILTY ギルティ」

 小津安二郎が天才と評した清水宏は、男と女と乗物があれば映画はできると語ったという。「有りがたうさん」のニックネームで親しまれているバス運転手と、なにか複雑な事情のありそうな女、売られてゆく娘とその母親、東京帰りの村人などの乗客やすれ違う人々とのやりとりを、暖かく、ほのかなユーモアを交えて描いた「有りがたうさん」はその具体、また見事な達成だ。

 「有りがたうさん」から八十年余り、「THE GUILTY ギルティ」を見て思った、一人の人間と、電話、コンピュータなど情報通信機器と電話の向こうの声があれば映画はできる、と。

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 ある事件のために刑事から、緊急通報指令室のオペレーターに異動となったアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)は電話で受け付けた出来事に必要な措置を手配する日々を送っている。そうしたある日、電話越しに、いま、夫に拉致されて、どこかに連れ去られようとしているという緊迫した女性の声を聞いた。

 他の部署に連絡を取ったうえで電話対応を続けるが、手がかりとなるのは電話を通して微かに聞こえる車の発車音や周囲の音、そうしてようやく聞きだせた車のナンバーをもとに走行中の車の位置を追跡し、女性の自宅を特定する。ただちに彼女の家に電話をしたところ、幼い女の子が出て、話を聞くと、ここでも不可解な出来事が起こっていると推測された。

 舞台は緊急通報のオペレーター・ルームだけ、主要登場人物はアスガーひとりというシンプルな設定ながら電話の向こうは複雑で、何が起こっているのかわからず、観客はアスガーといっしょに電話を聞き、不安を募らせることとなる。

 見ごたえある低予算作品(積極的にはミニマリズムとなるのかな)には創意と工夫が詰まっている。電話の声や音でこれほどサスペンスが溢れ、想像力がかきたてられるなんて、こんな手があったのかと驚き、唸った。

 監督はグスタフ・モーラー、この異色のデンマーク製サスペンス作品で長篇作のデビューを飾った。

(二月二十三日新宿武蔵野館