イギリス人の旅(伊太利亜旅行 其ノ四十一)

西行の足跡をたどったり、『おくの細道』のコースを追ったり、古人があるいた旅の跡を訪ねる人は多い。誰かが言ったとか、日本人は人が行ったところへ行きたがる、それにたいしてイギリス人は未踏の地へ行きたがる、と。ここから判断するに、空海ゆかりの札所八十八箇所を巡拝する四国遍路は日本人好みの旅と信仰が結びついたものであり、イギリスで冒険小説が生まれたのは人が行かない地へ赴こうとする心情が作用している。
もっともパックツアーや旅行代理店という旅のシステムを起業したのもトマス・クックというイギリス人だったから理屈はいろいろと付けられる。
E.M.フォースター眺めのいい部屋』で旅行案内書に頼ろうとするルーシーを作家のミス・ラヴィッシュが、そんな本には表面的なことしか書いていない、本物のイタリアは辛抱強く観察してはじめて見えてくるとたしなめる場面がある。旅の案内書がお好きでないのは未踏の地志向のあらわれかもしれない。
(写真はミラノ大聖堂