パック旅行や旅案内のこと(伊太利亜旅行 其ノ四十)

パック旅行や旅行代理店のシステムを考え出したのは一八0八年にイギリスに生まれたトマス・クックという青年だった。自分もメンバーだった禁酒同盟の会員五百名を、さほど遠くない町での集会に連れて行き、食事やお茶の世話をした経験が一八四一年のトマス・クック社の誕生につながった。
E.M.フォースターの名作『眺めのいい部屋』のルーシーがイタリアに旅したのはクックが生まれたおよそ百年後の一九0七年で、この小説を読むとこのかんに海外旅行の大衆化がずいぶん進んだのがよくわかる。フィレンツェのペンション、ベルトリーニはイギリスからの観光客でにぎわっている。乗った馬車の御者の態度が気に入らないと、プライドの高いイギリス人の牧師が「わたしたちをまるでクック旅行者の団体客なみに考えている」と怒る。
旅行が普及すれば旅案内も必要となる。ルーシーも旅行案内書の代名詞的存在だったベデカーの『北イタリア・ハンドブック』をさげている。
(写真はピサの大聖堂)