「聖女カテリーナ」(伊太利亜旅行 其ノ三十三)

十四世紀のなかば、シエナの染物職人の家に生まれたカテリーナ・ベニンカーサは、幼いとき、自分は神に呼ばれているとの確信を得て、神だけにみちびかれて生きることを選んだ。
聖心女子大学に入学した須賀敦子が英語によるブック・レポート提出の課せられた授業(たぶん西洋史の授業だったと書いている)でさいしょに選んだのがデンマークの作家ヨルゲンセンの書いた『シエナの聖女カテリーナ』だった。カテリーナの伝記を読んだ須賀敦子は「『神だけにみちびかれて生きる』というのは、もしかしたら、自分がそのために生まれてきたと思える生き方を、他をかえりみないで、徹底的に追求するということではないのか。私は、カテリーナのように激しく生きたかった」と願う。
宗教についてつきつめて考えたことのない自分が須賀敦子をどれだけ理解できるだろうと思いながらわたしはシエナの町を歩いた。