聖女カテリーナ像(伊太利亜旅行 其ノ三十五)


須賀敦子は在俗のまま学問を修め、生涯を教義のために尽くした聖女カテリーナに早くからあこがれていた。
シエナには聖女カテリーナ通りがあり、サン・ドメニコ教会にはアンドレア・ヴァン二が描いた肖像画がある。この肖像画について須賀敦子は若き日1971年4月10日の日記に「シエナ派の私は、きれながの目がひどく好きだ。お茶のお点前の時の柄杓のような具合に、白い百合の枝をもって、つめたいような顔をしている。カテリナの沈黙に、私は、心をひかれる」と書いている。
ここにある百合については林達夫が、シモーネ・マルチニやフラ・アンジェリコの「受胎告知」とともに白百合のある宗教画の最も美しいもののひとつだと述べている。若いときから親しんだ林達夫と、いま読んでいる須賀敦子を聖女カテリーナがつないでくれている。
(写真は『須賀敦子が歩いた道』より)