「スノーピアサー」

「スノーピアサー」、漢語の題名「雪國列車」は文芸作品のようだがじっさいはなかなかエグいアンチ・ユートピアの映画だ。
二0一四年世界は地球温暖化を防止するためCW-7と呼ばれる薬品を散布したところ深い雪に覆われてしまい地球に氷河期がふたたびやって来た。十七年後、生き延びた人々はノアの方舟ならぬスノーピアサーと呼ばれる列車の中で暮らしている。
列車内部は生態系が循環する仕組みになっていて、そのため文字通り弱肉強食の原理が貫徹している。弱肉は列車の最後尾で、前に行くほど強食の上流階級が生活していて、一番前には所有者ウィルフォード(エド・ハリス)がいる。

惑星ソラリス」や「2001年宇宙の旅」のように緊張して心が硬くなる心配のない単純至極な設定なのでSF系の苦手なミステリー派のわたしでも密閉された生態系と古典的なマルクス主義をリンクさせた世界にはスッと入って行けた。
この階級社会と閉鎖生態系のなかで、最後尾にいるカーティス(クリス・エヴァンズ)が叛乱を企図して前方車両をめざす。軍師はギリアム(ジョン・ハート)という老人だ。そうしてカーティスの革命に一縷の希望を見いだした人たちも列車の前方をめざす。
母なる証明」のポン・ジュノ監督が韓国の役者にくわえ欧米のキャストを招いて手がけたはじめての英語作品と喧伝されている映画で、エド・ハリスジョン・ハートが出ているのはうれしいが、全体の彩りは韓流そのもの。それと「母なる証明」のさらなる人間性の証明なんかに期待してはいけない。ツッコミを入れようとすればいくらでも入れられるが、そんなことにうつつを抜かさず、列車内でのアクションを無心に眺めているとなつかしいB級ピクチュアのテイストが匂って来ます。
(二月十日角川シネマズ有楽町)