「密偵」

諜報戦をめぐる出色の韓国映画であり、将来にわたりスパイスリラー映画史上の選り抜きの作品となるだろう。「韓国750万人動員の大ヒット作!」と謳われているのも当然である。
一九二0年代、日本統治下の京城武装独立運動団体の義烈団が朝鮮総督府の爆破を企んでいるとの情報が総督府警務部門にもたらされた。これをうけて責任者東(ヒガシ・鶴見辰吾)は配下の朝鮮人イ・ジョンチュル警部(ソン・ガンホ)に義烈団の情報収集とメンバー全員の逮捕を命じた。
イ警部が接近したのは義烈団のリーダーの一人キム・ウジン(コン・ユ)で、これに対し義烈団のトップ、チョン・チェサン(イ・ビョンホン)は警部の組織への取り込みを図りながら爆破計画を進める方針をキムに伝えた。

東はイ警部のこれまでの実績を評価しながらも不審に思うところがあり、かれに尽くすことでイ警部の上に立とうともくろむ朝鮮人警官ハシモト(オム・テグ)を警部の補佐役とした。
イ警部は義烈団と警察上層部双方の動きをにらんでみずからの保身を図らなければならない。こうしたなか義烈団は上海から京城へ爆薬を持ち込む計画を進め、情報をキャッチしたイ警部とハシモトは上海へ向かう。
東とイ警部との関係がぎくしゃくするなかでイとハシモトの確執が表面化する。義烈団では内部に「もぐら」のいることが判明する。これらの事情と爆弾を積んで列車は上海から京城に走り出す。
錯綜する人間関係の行方、爆破の成否、イ警部の動向を軸とするスリリングな展開に目が離せない、ヒリヒリし通しの140分だ。
監督はアーノルド・シュワルツェネッガーカリフォルニア州知事退任後初の主演作「ラストスタンド」を演出しハリウッド進出を果たしたキム・ジウン。これからの動向に注目だ。
好演揃いの役者陣、なかでも剽悍、したたか、うさん臭さを具え、状況に応じてその成分を変えてゆくソン・ガンホの演技には脱帽だ。泣きのシーンが二つあって、うち一つは「仁義なき戦い」の山守親分(金子信雄)も感心するだろう泪だ。
(十一月十五日シネマート新宿)