カサブランカの空港で(モロッコの旅 其ノ二)

カサブランカでの入国手続きにはむやみに時間がかかった。係官不在のためか閉じられた窓口が二三あり、そのうえわたしたちが並ぶ列では係官と客との言い争いが生じ、くわえて車いすの方や乳幼児を連れた方の優先措置(当然のことであり、これをとやかく言っているのではない)があり一時間余り待たされた。
こんなに時間がかかるのはきわめて異例だっただろう。しかしわたしのように映画「カサブランカ」を十回以上も観た者には、この地の入出国の困難は刷り込まれていて、手続きを待ちながら、いやー、じつにカサブランカらしいではないかとおのずと笑みが浮かぶのだった。
映画の冒頭でナレーターは語る。第二次大戦中、カサブランカはヨーロッパを脱出してアメリカに向かう人々の中継地だった。幸運な者はここで金やコネや運で出国ビザを入手してリスボンへ行き、そしてそこから新天地へ向かったが、そうでない者はビザを入手し、出国できる日を、待って、待って、待ち続けるのだった、と。